物理的な世界にAIを持ち込むには、インテリジェンスだけではもはや不十分です。スポーツ選手は重圧に耐えながら本能と反射神経を頼りに行動しますが、それと同様に、フィジカルAIシステムは予測不可能な環境でも安全性と信頼性を確保しながら、即座に反応できる必要があります。
このブログでは、NXPの社長兼CEOであるRafael Sotomayorが、反射、ニューラル・アクシス・アーキテクチャ、トラスト・バイ・デザインが機械の新たな基盤となり、最高レベルのパフォーマンスを実現することについて解説します。
この数週間で、何十億もの人々が、世界最高のアスリートたちが並外れた重圧に耐えながら競技に取り組む映像を目にしました。世界で最も多くの視聴者を集めるスポーツ大会では、すべてのプレーヤーが自分の力で出場を果たし、競技に関する深い知識を持っています。
では、エリート・アスリートが秀でているのはどのような点でしょうか。それはインテリジェンスではなく、タスクの習熟です。躊躇することなく即座に、正確に、確実に行動する能力こそが、真のエリート・アスリートとそれ以外のアスリートの違いです。
これと同じ質問が、現代の最も重要な革新的技術でも注目されています。つまり、現実世界で私たちの身近で働く機械にとって、「エリート級のパフォーマンス」はどのようなものか、という質問です。
NXPのCEOであるRafael SotomayorがComputex 2026で登壇し、AIを物理的な世界に持ち込むことに関するNXPのビジョンを語りました。詳細については、基調講演のビデオをご覧ください。
インテリジェンスから反射へ
今日のAIシステムは、驚異的な規模で情報を収集し、推論を実行してインサイトを生成できることを考えると、素晴らしいものと言えます。
しかし、インテリジェンスをクラウドから切り離して物理的な世界(自動車、ロボット、自律システムなど)に持ち込むと、ルールが根本的に変わってしまいます。現実の世界は、マーフィーの法則やフィナグルの法則が支配する、予測不可能性の高い場所です。つまり、何か悪いことが起きる可能性があるならば、それが最悪のタイミングで起こる世界です。
現実の世界では、以下の要素が需要になります。
- レイテンシが重要
- 省電力性が重要
- 信頼性が最も重要
端的に言えば、行動中に次の行動を瞬間的に決定できるシステムは現実には存在しません。エリート・アスリートのように、機械もインテリジェンス以外の能力を発達させる必要があります。本能と反射に相当する能力が、機械にも求められています。
「言語でも推論でもない、反射こそが、ロボティクスで最も実現が困難な能力なのです」
Rafael Sotomayor
自然は既にこの課題を解決
現在、最も先進的なフィジカルAIシステムは、データ・センターではなく人体にあります。
人間のインテリジェンスは集中化されていません。3つの重要なレイヤに分散されています。
- 計画と学習を担う推論レイヤ
- 動きとバランスを担う協調レイヤ
- 待ち時間なく即座に行動するための反射レイヤ
熱いものに触ったときに、次の行動をじっくり考える人はいません。考える前に反応するものです。何が起きたのかを脳が十分に把握する前に、体が動きます。
この能力は偶然生まれたわけではありません。数十億年にわたる最適化、つまり自然界における進化の結果です。このことは、重要な事実を明らかにします。つまりインテリジェンスは脳を大きくすることで強化されるのではなく、適切な場所に適切なインテリジェンスを配置することによって強化されるのです。
NXPのCEOであるRafael Sotomayorが、フィジカルAIに対するビジョンを語ります。「脳ではなく、ニューラル・アクシス(神経回路網)として考えることを始めましょう」
ニューラル・アクシス・アーキテクチャの台頭
ドローン、ソフトウェア・デファインド・ビークル (SDV)、ヒューマノイド・ロボットなど、フィジカルAIシステムが発展する中で、明白な共通パターンが浮かび上がってきました。インテリジェンスは自らを分散型アーキテクチャとして組織化します。それが、ニューラル・アクシスです。ニューラル・アクシスの機能は以下のレイヤで構成されます。
それぞれのレイヤが異なる速度で動作し、特定の機能を担います。これにより、次のことが可能になります。
- ドローンに突風が当たっても、ミリ秒単位で安全に姿勢を安定化させる
- 車両システムの接続が切断されるなど、高レベルのシステム機能低下が発生しても安全性を維持する
- ロボットのワークスペースに想定外のタイミングで人が立ち入るなど、予測不可能なイベントが発生しても即座に反応できる
物理的世界では、待つことは悪手です。
NXPのフィジカルAI向けアーキテクチャ・モデル、ニューラル・アクシス・アーキテクチャ
信頼は後から得られないため必ず設計に組込む
フィジカルAIの本質は、信頼性を後から獲得できないことです。フィジカルAIシステムは障害が現実に存在して実体のある結果をもたらす環境で動作するため、ごく初期の段階から保証を設計に組み込む必要があります。
システムが正常に動作している限り、信頼性が問われることはありません。信頼性が問われるのは、以下のような重大な障害が発生したときです。
- ドローンのモーターが停止した
- 自動車の高レベル・インテリジェンスが停止した
- 想定外の状況でロボットが通信できなくなった
こうした状況でも、システムは予測可能な方法で、高い安全性と信頼性で動作する必要があります。これは絶対に譲れない条件です。
組込みシステムでこのレベルの信頼性を達成するには、新たな設計原則が必要になります。それが、以下のNXPの信頼性原則です。
- 障害を即座に封じ込める
- システムをすべてのレベルで保護する
- 測定可能な安全性フレームワークを利用して動作を検証する
- 長期的な状況に適応しつづける
なぜなら、現実世界には「元に戻す」ボタンがないからです。
NXPのCEOであるRafael Sotomayorが、フィジカルAIで信頼性を実現するための4つの信頼性原則を紹介しています。
「まったく問題を起こさないシステムを設計することは不可能です。しかし、何か問題が発生しても、うまく対処するシステムは設計できます 」
Rafael Sotomayor
空想から現実へ
フィジカルAIは、もはや理論上の存在ではありません。現実世界への影響は既に現れつつあります。
出典:AI in Robotics Statistics 2026: Adoption, Efficiency & Future Outlook .
フィジカルAIシステムの「エリート」とは
エリート・アスリートの卓越した能力は、多くの場合、目に見えない要素によってもたらされます。反射的に行う細かな動作や、重圧の中でも安定したパフォーマンスを発揮するための、不可視のシステムです。NXPはそれを、ニューラル・アクシス・アーキテクチャと呼びます。
フィジカルAIも同じです。「エリート」フィジカルAIは、インテリジェンスだけでは実現されません。現実的な条件、特に劣悪な条件下で、信頼性の高いパフォーマンスを現実世界で発揮できる能力が求められます。
こうした能力が、次の世代の機械に欠かせないものとなるでしょう。さらにこうした能力によって、フィジカルAIがどれほど早く、どのようにして日常生活に取り入れられるのかが決まります。