新しい先進運転者支援システム (ADAS) の規制が導入され、公道での走行試験が進められる市場が増えてくる中で、レーダーに求められる要件は急速に複雑化しています。オクルージョン、低反射オブジェクト、密度の高い交通状況、厳しい気象状況などの問題に対応するには、高い精度と広い検知範囲が求められますが、同時に統合化や検証に時間がかかりすぎないことも必要です。
レーダーはADASにおいて必要不可欠な要素になりつつあります。衝突被害軽減ブレーキ (AEB) の試験シナリオに対応するためにレーダーベースのセンシング機能が必須になると予想される米国、インド、中国などの地域では、現在は超高級モデルが、幅広い自動車市場で基盤テクノロジとして利用されています。自動車の自動化がさらに高いレベルに向かう中で、物陰にいる交通弱者 (VRU)、気象状況による性能低下、複雑化が進む運転環境など、従来よりも現実的で要求の厳しい試験シナリオがセーフティ・プログラムに導入されています。
こうした現在進行中の変化は、もはや開発効率を犠牲にしてもパフォーマンスを高めることができないという二重の課題を浮き彫りにします。レーダー・モジュールは、高い分解能、広い検出範囲、全天候型の信頼性の高い検知機能を備えながら、複数の車載アーキテクチャを効率的に統合し、ごく短期間で検証を実施できる必要があります。
NXPのSAF8544ワンチップ・レーダーSoCは、優れたセンシング性能、統合化した処理ユニット、開発者向けサポートを、拡張性の高いレーダー・プラットフォームと組み合わせることで、OEMやTier1サプライヤーがこうした最新の要件を達成できるように設計されています。
レーダーの性能要件が高まっている理由
エントリー・モデルからプレミアム・プラットフォームまで、あらゆる自動車セグメントでレーダーに対する需要が高まっています。安全性と快適性に関わる機能が引き続き強化される中で、センサ・フュージョンが高度化し、車両1台に多数のレーダー・ノードが導入されるようになっています。同時に、高速道路や都市部の自動運転機能などのL2+およびL3のユースケースでは、さらに高い解像度で環境を認識する必要があります。
カメラやLiDARテクノロジとは異なり、レーダーは雨、霧、暗所でも高い信頼性で距離と速度を測定できます。しかし次世代の安全性基準をサポートするには、レーダーも角度分解能を高め、低反射率の物体を検出し、高密度干渉環境で動作する必要があります。モジュールを大型化することなく、消費電力を抑え、検証作業の複雑化を避けながら、優れた検出性能を実現するという課題を達成しなければなりません。
次世代の安全性を実現するスケーラブル・レーダー・プラットフォーム
レーダーを6世代にわたり開発してきたNXPのノウハウを基に開発されたSAF8544は、NXPの第6世代スケーラブル・レーダー・プラットフォームで初となるシングルチップ・レーダーSoCです。SAF8544は先進の28 nm RFCMOSプロセスで製造され、高周波回路 (RF)、処理回路、制御回路を1つのデバイスとして統合しています。この高度な集積化によって、強力なRF性能を維持しながら、前世代のレーダー・モジュールと比較して最大30%程度の小型化を実現しています。このアーキテクチャは拡張性に優れ、共通のハードウェア・プラットフォーム上でフロント・レーダーとコーナー・レーダーの両方のアプリケーションをサポートするため、OEMプログラム全体で製品ポートフォリオを効率化するために役立ちます。
高度なセンシング性能の実現
現実に即した試験シナリオを求める規制要件が増える中で、レーダー・モジュールには、小さく検出が困難な目標を高い精度で検出することが求められています。SAF8544は最大4 GHzのチャープ帯域幅をサポートし、4個の送信チャネルと4個の受信チャネルを備え、優れた角度分解能と垂直方向分解能を可能にしています。高いRF出力性能と低ノイズ性によって感度と検出範囲が改善され、短距離レーダー (SRR) および中距離レーダー (MRR) の両方のアプリケーションに対応します。
LiP (Launcher-in-Package) 構成によって、さらにパフォーマンスが強化されます。LiPでは標準的なパッチ・アンテナ・ソリューションよりもリンク・バジェットが有意に改善されることから、検出距離が長くなり、小さな物体に対する感度が強化されます。さらに、難燃性グレード4 (FR4) などのコスト最適化されたプリント基板 (PCB) 材料を使用でき、平面アンテナ構成と3Dアンテナ構成をサポートするため、モジュール設計の柔軟性がさらに高まります。こうした特性から、オクルージョンや厳しい気象条件など、ますます厳しくなるセーフティ・シナリオに対応できるレーダー・モジュールを設計できます。
処理能力の統合によりシステムの複雑さを軽減
次世代型レーダーに求められるのは性能だけではありません。レーダーのデータ量が増加すると、システム・レベルの複雑さが急速に増大する可能性があります。SAF8544は高度な処理能力をオンチップに統合することで、モジュール・アーキテクチャを簡素化しています。レーダー・アクセラレータとして信号処理ツールボックス (SPT) 3.4、BBE32デジタル信号プロセッサ (DSP) としてArm® Cortex®-A53アプリケーション・プロセッサを組み合わせ、さらに制御機能と安全機能向けにロックステップ構成のArm Cortex-M7 MCUを搭載しています。
マルチコア・アーキテクチャにより、レーダー信号の前処理と後処理をオンチップで実行し、センサからオブジェクト・リストと点群出力を直接取得する機能をサポートします。SAF8544ではレーダー・モジュール内でのエッジ処理が可能になるため、外部プロセッサの要件が緩和され、車載ネットワークにおけるデータ帯域幅の要件も低くなります。コントローラ・エリア・ネットワーク・フレキシブル・データ・レート (CAN-FD) とギガビット・イーサネット・インターフェースをサポートするスマート・トランシーバ・アーキテクチャによって、さまざまなOEMプラットフォームと効率的に統合できます。
このレベルの統合によって、ハードウェア設計の負担が減り、PCBのレイアウトが簡素化され、複数の車載プログラム間のソフトウェア統合を効率的に実施できます。
SAF85xxレーダー・ワンチップSoCのブロック図
検証とOEM受け入れの迅速化
検証サイクルも複雑化していることから、サプライヤは安全性に関連する性能を明確かつ効率的に実証する必要があります。SAF8544は、ASIL-Bを目標とした特定条件に依存しない安全要素 (SeooC) としてISO 26262開発をサポートし、OEMの機能安全要件に合わせたレーダー・モジュールの開発に役立ちます。
評価作業とプロトタイプ作成をさらに迅速化できるよう、NXPはPlutoレーダー・リファレンス・デザインを提供しています。これには、SAF8544を搭載した5 cm x 5 cmのコンパクトなセンサ・プラットフォームが含まれます。
- 4T4Rレーダー・チャネル
- 最大200 mの検出範囲を実現し、SRRアプリケーションおよびMRRアプリケーションをサポート
- パワー・マネジメント集積回路 (PMIC) および1000BASE-T1 PHYを統合
- 開発済みのレーダー・ファームウェア
- 評価用のRadarXplorerグラフィカル・ユーザ・インターフェース (GUI)
- カスタム・ファームウェア開発用のSAF85xx SDK
このプラットフォームは準備不要で使用を開始でき、RF性能の評価、ソフトウェア開発の開始、レーダー・モジュールのプロトタイプ作成をすぐに実施できるため、概念設計の段階から短期間でOEMプログラム・エンゲージメントまで到達できます。
Plutoセンサのレーダー・リファレンス・デザイン
複雑化する環境の中でも明確な道を示す
安全規格が進化し、自動運転機能が強化される中で、レーダーモジュールの開発にはさらに高い技術力が求められるようになり、検証作業の負担も増しています。Tier-1サプライヤと自動車メーカーは、短縮される一方のプログラム・タイムラインの中で、うまくバランスを取りながら高度なセンシング性能、スケーラブルな統合性、迅速な開発サイクルを実現する必要があります。
OEMとTier1サプライヤは、先進的なRF性能、統合されたマルチコア・プロセッシング、拡張性の高いリファレンス・デザイン・エコシステムを備えたSAF8544を使用することで、システム・アーキテクチャを簡素化して検証作業を迅速化しながら、コンパクトな高分解能レーダー・モジュールを設計できます。その結果、生産対応の実用的なプラットフォームが得られ、高度化するNCAP要件を確実かつ効率的に達成できます。