i.MX RT700ファミリは、ウェアラブル、民生用医療機器、スマートホーム、HMIデバイスなどのAI対応エッジを駆動するように設計されており、高性能、広範な統合、高度な機能、電力効率の最適な組み合わせを提供します。
NXPは、i.MX RT500およびi.MX RT600クロスオーバーMCUの実績を礎に、eIQ® Neutronニューラル・プロセッシング・ユニット (NPU) を統合した超低消費電力マルチコアi.MX RT700を発表しました。
新しいi.MX RT700ファミリは現行の両ファミリを組み合わせたものであり、消費電力をさらに削減すると同時に、コア数の増加と以下に示すアーキテクチャの拡張によりパフォーマンスをさらに向上させています。
- NXPのeIQ Neutron NPU AI/MLアクセラレータの統合
- 最大7.5 MBの低消費電力内部SRAMアレイを30のパーティションに分割し、マルチコアのアクセスを最適化
- 新しいグラフィック・アクセラレータに、ベクタ・グラフィック・エンジンおよびMIPI-DSIインターフェースと連動するハードウェアJPEGおよびPNGデコーディングを搭載
- 前世代に比べて消費電力を最大70%削減
- 1.2 V低消費電力eUSB規格のサポートにより、標準USB2.0デバイスとのやりとりが可能
i.MX RT700の概要
i.MX RT700は、高性能のセンシング、DSP、演算能力を必要とする、深い組込みアプリケーションをターゲットにしながら、低消費電力特性を維持してバッテリーの寿命を延ばします。
eIQ® Neutron NPUを備えたマルチコア・アーキテクチャ
新しいi.MX RT700のCPUのアーキテクチャは、高性能メイン・コンピュート・サブシステム、「常時オン」のセカンダリ・センス・コンピュート・サブシステム、および専用のコプロセッサで構成されています。
i.MX RT700ブロック図
メイン・コンピュート・サブシステムでは、325 MHz対応のArm® Cortex®-M33 (CM33) を使用しています。i.MX RT600クロスオーバーMCUと同様に、i.MX RT700にはCadence Tensilica® HiFi 4 DSPが搭載されています。HiFi 4は、Very Long Instruction Word (VLIW) アーキテクチャをベースとした高性能DSPコアであり、1つの命令サイクルで最大8つの32x16 MACを処理することが可能です。これは、オーディオや画像処理などの高性能な数値演算の負荷を軽減するために使用でき、固定小数点演算と浮動小数点演算の両方をサポートします。
CM33は、システムの起動時に利用可能な汎用実行プラットフォームとして機能します。HiFi 4 DSPの初期起動に加え、他のコプロセッサや外部メモリ・インターフェースにも対応します。低消費電力のセンス・コンピュート・サブシステムは、250 MHz対応の別のCM33および低消費電力のCadence Tensilica® HiFi 1 DSPで構成されています。このサブシステムは主に常時オンのアプリケーションを対象としており、超低消費電力での動作に合わせてチューニングされた一部の汎用ペリフェラルにアクセスできます。アプリケーションには、PDMマイク・インターフェースによるウェイク・ワード検出、リアルタイム・センサ・ハブ、およびBluetooth LEオーディオ処理などがあります。
i.MX RT700は、AIおよび機械学習モデルのアクセラレーションをサポートするために、NXPのeIQ® Neutron NPUを内蔵しています。eIQ® Neutronは、AIおよび機械学習アプリケーション向けに構築されたさまざまなNXP製品に搭載されている拡張性に優れたハードウェア・アクセラレータ・アーキテクチャです。
eIQ Neutron NPUのアクセラレーション乗数
i.MX RT700はeIQ Neutron N3-64 NPUを搭載しており、その能力はMCX N947 MCUのN1-16とハイエンドi.MX 95アプリケーション・プロセッサのN3-1024の中間に位置します。このNPUは、低消費電力の深い組込みアプリケーション向けにチューニングされており、汎用プロセッサと比較して、推論あたりの消費電力を最大119倍削減すると同時に、172倍のパフォーマンスを発揮します。
eIQ Neutron NPUを用いたAL/MLアプリケーションの開発は、eIQ MLソフトウェア開発環境によってサポートされています。このツールセットにより、開発者は、TensorFlow Liteなどの一般的なMLフレームワークからのコードを等価な演算グラフに変換するワークフローをNPUで加速できるようになります。
i.MX RT700に備わるもう1つの画期的な処理リソースが、オープン・ソースのRISC-V命令セット・アーキテクチャ (ISA) をベースとした新しいEZH-V IOコプロセッサです。
EZH-VのRISC-V ISAは次のように機能が拡張されています。
- ハードウェアの乗算および除算機能の追加
- 浮動小数点機能の追加
- ビット操作機能の追加
- コード密度の向上
EZH-Vは、グラフィック・データの後処理用に「SmartDMA」のタスクを実行することができ、GPU、CPUとFlexIOやMIPI DSIなどのハードウェア・インターフェースとの間の高速データ操作ブリッジとなります。EZH-Vは、その他あらゆる汎用I/O (GPIO) のタスクに使用可能で、GPIOおよびほとんどのオンチップ・ペリフェラルからのさまざまなトリガ入力に接続されます。EZH-Vのコードは、MCUXpresso SDKで提供される予定のRISC-V LLVMベースのツールチェーンを使用して開発されます。
処理、グラフィックス、およびストレージに対応する高度なメモリ・アーキテクチャ
i.MX RT700のメモリ・アーキテクチャは、さまざまな内部処理リソース間に柔軟で競合が少ない相互接続を確保できるよう最適化されています。7.5 MBの大容量SRAMアレイは30のパーティションに分割され、各パーティションにバス・コントローラからアクセス可能であるため、CM33コア、HiFi DSP、DMAコントローラ、EZH-V間の競合が低減されます。大容量の内部メモリは、大容量のグラフィックス・フレーム・バッファへの高速アクセスを可能にするとともに、内蔵のハードウェアJPEGおよびPNGデコーダと連動させることができます。
SRAMの30の各パーティションは、コードまたはデータ・ストアとして固定的に使用したり、CPU専用としたり、またはさまざまなコア間で共有したりもできます。各パーティションはそれぞれ独立して低消費電力保持モードに設定、または完全に電源をオフにできます。
専用のシステム・キャッシュおよびコード・キャッシュとして機能する2つのXCACHEモジュールがあり、これらにはコンピュート・サブシステムのプライマリCM33、HiFi 4、EZH-Vから、およびeDMAペリフェラルの2つのインスタンスからアクセスできます。これらのキャッシュは、外部メモリにアクセスするときのパフォーマンスを大幅に向上させます。HiFi 4は、独自のローカル密結合メモリ (TCM) に加えて、パフォーマンスが極めて重要なDSPを配置するためのローカル命令/データ・キャッシュを備えています。
外部メモリのサポート
従来のi.MX RT500およびi.MX RT600デバイスと同様に、i.MX RT700はフラッシュレス・アーキテクチャです。クアッドおよびオクタル・フラッシュ・メモリとのインターフェースとして、3つのxSPI外部メモリ・コントローラが搭載されています。xSPIインスタンスのうち2つは、不揮発性ストレージを追加するために、外部PSRAMへの16ビット・インターフェースをサポートしています。
xSPIは、最大400 MHzのDDR転送および200 MHzのSDR転送に対応します。これにより、大きなMLモデル、データ・バッファ、グラフィック・アセット用に高速外部RAMの大きなブロックを追加できるようになります。xSPIコントローラを介して接続された外部メモリは、システムのメモリ・マップを通じてアクセス可能です。コードは、外部接続のフラッシュから直接実行 (XIP) することができます。xSPIインターフェースは、キャッシュにより最大限のパフォーマンスが確保されます。
xSPIコントローラには柔軟なルックアップ・テーブル (LUT) ベースのコマンド・エンジンが内蔵されており、これは事実上すべてのNORフラッシュ・メモリをサポートするように適合させることができます。i.MX RT700のブートROMは、xSPIインターフェースに接続されたフラッシュを使用してシステムを起動できます。内部SRAMへのブート・コードのコピーや直接のXIPなど、いくつかのオプションがあります。暗号化されたコードは、外部フラッシュからアクセスする際と同様に、オンザフライで復号化できます。
バルク品のストレージ・メモリを、SHDC/eMMCコントローラを介して接続できます。i.MX RT700のブートROMは、eMMC/SDカードからのシステムの起動もサポートしています。そのため、SD/eMMCメモリを使用して、i.MX RT700を起動することも、一般的なファイル・システムで構成およびグラフィック・アセットを保存することも可能です。
スペースに制約のある製品向けのパッケージ
i.MX RT700は、324ボール、7.3x7.3 mm、0.4 mmピッチのファンアウト・ウェーハ・レベル (FOWLP) パッケージ、および256ボール、6.025x6.025 mm、0.35 mmピッチのウェーハ・レベル・チップ・スケール (WLCSP) パッケージで提供されます。これらのパッケージにより、開発者は非常に限られたスペースにもi.MX RT700を組み込むことができます。
ウェアラブルおよびパーソナル・フィットネス・アプリケーションに最適
ウェアラブル、パーソナル・フィットネス、民生用医療機器、拡張現実などのアプリケーションでは、高機能で超低消費電力の高密度パッケージにより大きなメリットが得られます。
i.MX RT700を使用した超低消費電力の深い組込み設計
i.MX RT700は 、低消費電力の組込みプロセス技術の飛躍的な進化を象徴しています。超低消費電力と高い処理能力を実現するように設計されたi.MX RT700は、専用グラフィックス・アクセラレータによる最高のユーザー・エクスペリエンスと同時に長いバッテリー寿命が求められる、数多くのアプリケーションに対応します。
マルチコア・アーキテクチャは、設計者による製品設計のアプローチに高い柔軟性をもたらします。汎用コアと高性能DSPおよびパワフルなNPUの組み合わせは、差別化された組込み製品を実現するうえでi.MX RT700に唯一無二の能力をもたらしています。
早期アクセス・サンプルをお求めのお客様は、NXPの営業担当者までお問い合わせください。