先進的なHMIアプリケーション、コンピュータ・ビジョン・システム、エッジAIなどのプロジェクトに取り組む開発者がよく直面する課題は、高価で複雑な開発プラットフォームに頼ることなく十分なプロセッシング・パワーを得ることです。FRDM i.MX 8M Plusソリューションは、そのような開発者の課題を念頭に開発されたプラットフォームです。
開発チームにとって多くの開発プラットフォームは、導入が難しく、非常にコストがかかるものです。このことが、高度な機能が求められているのに、そのための開発ツールを使用できないという問題を生んでいます。NXPのFRDM i.MX 8M Plusプラットフォームは、従来は高価な評価用プラットフォームにのみ搭載されていた機能を低コストで搭載していることから、幅広い開発チームで利用できる可能性が広がります。
プロセッシングとコネクティビティに対するニーズの変化
組込みアプリケーションには、シングルコア・アーキテクチャをはるかに超えるパフォーマンスを備えたマルチドメイン・コンピューティング機能が必要です。たとえばスマート・ファクトリ・コントローラの場合には、機械のリアルタイム制御、ユーザー・インターフェースとネットワーク機能を担うLinux®アプリケーションの実行、品質検査や予知保全のためのAI推論の実行を、同時に管理する必要があります。
組込みシステム・アーキテクチャにおけるもう1つの注目すべきトレンドは、シンプルなマイクロコントローラ・アプリケーションから、エッジ・コンピューティングへのシフトです。かつては基本的なセンサ読み取りとデータ転送が重視されていたアプリケーションも、現在ではインテリジェントな意思決定を行うために、機械学習 (ML) アルゴリズムとリアルタイム画像処理を使用しています。
組込みシステムでは最新の要件に対応するために、複数の無線通信規格をサポートする必要があります。たとえば、高帯域幅アプリケーションに対応するためのWi-Fi 6、短距離デバイス間通信のためのBluetooth Low Energy (BLE)、IoTセンサ・ネットワークに対応するための802.15.4などの低消費電力プロトコルなどです。複数の無線通信規格を管理するには、多くの場合、別々のコントローラを使用する必要があります。その場合、パワーマネジメントの問題と、同時使用による干渉の問題が発生します。
FRDM i.MX 8M Plus開発ボード。
エッジ推論とクラウド推論の要件
FRDM i.MX 8M Plusボードは、エッジ・ベースとクラウド・ベースの両方の推論を処理します。エッジ推論の場合、機密データがデバイス上で保持され、タイミングが重要なイベントに即座に対応でき、安定的なネットワーク接続がなくても機能します。このプラットフォームのニューラル処理ユニット (NPU) は毎秒2テラ回 (TOPS) の処理が可能なため、エッジ推論によるオブジェクト検出、顔認識、予測メンテナンス・アルゴリズムを処理することができます。
コストと開発時間の制約
プロジェクトのタイムラインが厳しくなり、関係者の期待水準が高くなっている現在、開発チームは、かつてないほど迅速に作業プロトタイプを提供しなければならないという大きなプレッシャーにさらされています。関係者は基本的な概念実証ビルドを求めてはおらず、完成されたハードウェア・ソフトウェア統合が初日から提供されることを期待するようになっています。このような期待から、プラットフォームのセットアップと設定にほとんど時間をかけられなくなっています。これは従来、開発初期段階で数週間かけていたタスクです。
FRDM i.MX 8M Plusボードは、フル機能の評価用キット (EVK) ソリューションよりもコスト面で優れる一方で、アプリケーション開発に必要なコア機能もしっかり搭載しています。GoPoint for i.MXアプリケーション・プロセッサ・デモが各ボードにプリロードされているため、実際の実装事例をすぐに参照でき、数週間かかる基本セットアップが不要になります。このような実装事例は、プラットフォームの機能を理解するために役立ち、カスタム開発の出発点として機能します。
既存の拡張ボードもそのまま使用できるため、以前に購入したセンサ、ディスプレイ、その他のアクセサリへの投資が無駄になりません。
FRDM i.MX 8M Plusの詳細
FRDM i.MX 8M Plusの中核となるアプリケーション・プロセッサには、プロセッシング・ニーズに効率的に対応できる異種混在コンピューティング設計が施されています。このプロセッサはLinuxアプリケーションに対応するArm® Cortex®-A53コアを4基と、時間要件の厳しい機能向けのCortex-M7リアルタイム・プロセッサを1基搭載しています。さらに、ハードウェア・アクセラレーションによるML推論機能を提供する2-TOPS NPUを搭載しています。
FRDM i.MX 8M Plusボードには4 GBのLPDDR4 RAMと32 GBのeMMCストレージが備えられ、Linuxアプリケーション、AIモデル・ストレージ、マルチメディア・プロセッシングに対応できる十分な容量が確保されています。ワイヤレス機能として、コンパクトなu-blox MAYA-W276モジュールの内部にIW611ベースのトライラジオ・ソリューションが統合されています。
FRDM i.MX 8M Plusボードには、ディスプレイ接続用のデュアルLVDSインターフェース、MIPI-DSI出力、HDMI出力などのマルチメディア機能に加え、カメラ統合に使用できるデュアルMIPI-CSIインターフェースが搭載されています。パワーマネジメントを担うPCA9450 PMICは、マルチコア・プロセッサ・アーキテクチャに対して効率的に電力を供給します。このプラットフォームには既存の拡張ボードとの互換性を確保するための標準40ピン拡張インターフェースに加えて、その他のデバイスの接続やストレージ・オプションに対応するためのM.2 Key-EスロットおよびKey-Mスロットが備えられています。
開発エコシステム
FRDM i.MX 8M Plusボードは、幅広いソフトウェアをサポートします。使い慣れたデスクトップ・アプリケーションのような開発ツールやパッケージ管理を求める方はDebian Linuxを、特定のアプリケーションに合わせて開発されたカスタムLinuxディストリビューションを求める方はYoctoを選択できます。
また、GoPoint for i.MXでもこのプラットフォームの機能について紹介しており、コンピュータ・ビジョン、AI推論、マルチメディア・アプリケーションを扱ったデモが用意されています。
コンパクトな13x10.5 cmのフォームファクタによって、大型ボードでは実現できないプロトタイプやデモに適合する一方で、プロセッサのすべての機能とインターフェースの利用が可能です。既存の2x20拡張ボードを引き続き使用でき、他のFRDMプロジェクトで購入したセンサ、ディスプレイ、アクセサリにもすべて対応します。
ソフトウェアとハードウェアの機能に応じて、EVKプラットフォームとFRDMプラットフォームのどちらかを選択することに注意してください。FRDM i.MX 8M Plusは幅広い機能を備えていますが、一部のEVKプラットフォームには、特定のアプリケーションで求められる追加のソフトウェア・ツール、BSPオプション、開発環境が用意されている場合があります。
開発に関する課題を解消するFRDM i.MX 8M Plus
FRDM i.MX 8M Plusの異種混在アーキテクチャは、さまざまなワークロード・タイプに合わせて最適化された専用のプロセッシング要素を使用して、マルチドメイン・プロセッシングの要件に対応します。IW612は、複数の無線通信スタンダード(Wi-Fi 6、Bluetooth Low Energy、802.15.4)を管理するシングルチップ・ソリューションとして使用できます。このデバイスによって、複数の無線コントローラを調整するという複雑な処理を避け、プラットフォームをさまざまな通信プロトコルを仲介するゲートウェイとして機能させることができます。
また、このプラットフォームにはNPUも搭載され、デュアルMIPI-CSIインターフェース経由のカメラ統合とAIアプリケーション用拡張機能によって推論ワークロードを処理するために使用されます。内蔵NPUの機能を超えるAIプロセッシング・パワーが必要なアプリケーションのために、M.2拡張スロットによるディスクリートNPUの追加もサポートしています。
主要なアプリケーション
FRDM i.MX 8M Plusの主要機能は、インダストリアル・オートメーションからインテリジェント・ビジョン・システムまで、幅広い組込み用途に適しています。以下に、このプラットフォームが特に適している3つの主要アプリケーション分野を示し、そのアーキテクチャと内蔵コンポーネントが実際の開発で直面する課題を解決するためにどのように役立つのかを紹介しています。
高度なHMIシステム
FRDM i.MX 8M Plusのマルチディスプレイ機能は、インダストリアル制御システムの構築に最適です。たとえばファクトリ・オートメーション・システムでは、機械を制御するためのLVDS接続のオペレータ用タッチスクリーン、製造に関連するメトリックとアラームを表示するためのMIPI-DSIステータス・ディスプレイ、生産ラインの監視監督用のHDMIモニターを駆動できます。
タッチ入力機能や内蔵DACを使用したオーディオ機能も、標準的なインダストリアル・インターフェースを超えるマルチメディア・エクスペリエンスを提供します。機械の操作を容易にする音声制御システムや音声フィードバック・システムを実装できます。さらに拡張オプションを使用して、複雑なオーディオ処理が必要なアプリケーションに対応するための拡張オーディオ・モジュールを追加できます。
FRDM 8M Plusプラットフォームによって高度なHMIアプリケーションを開発できます。
コンピュータ・ビジョンとAI
FRDM i.MX 8M PlusのデュアルMIPI-CSIカメラ・インターフェースは、ステレオ・ビジョン処理、マルチカメラ調整、高解像度画像解析が必要となるコンピュータ・ビジョン・アプリケーションに対応する高帯域幅接続を提供します。このプラットフォームのNPUは高負荷のAIプロセッシングに対応し、組込みシステムでの実用的なリアルタイム・コンピュータ・ビジョンを可能にします。
たとえば、インテリジェントなセキュリティ・カメラ・システムを構築する場合、このプラットフォームではMIPI-CSIインターフェースに接続されたデュアル・カメラから送られる高忠実度映像をキャプチャし、NPU上で実行されるオブジェクト検出モデルを使用してそのデータを処理することで、複数のカメラ・ビューの中でオブジェクトを追跡できます。
FRDM 8M Plusボードには、高度なビジョン・アプリケーションとエッジAIアプリケーションの開発に必要なインターフェースが搭載されています。
インダストリアルIoTゲートウェイ
FRDM i.MX 8M Plusトライラジオ・ワイヤレス・ソリューションは、製造施設で使用される複数の通信プロトコルをブリッジングするために役立ちます。IW612ベースの接続により、802.15.4プロトコルを使用する旧型機器、Wi-Fi接続を使用する新しい機器、Bluetoothを使用するモバイル・デバイスに対応できます。この機能により、個別にワイヤレス・コントローラを用意する必要がなくなり、単一のプラットフォームで設定と監視を行うことができます。
FRDM i.MX 8M Plusは組込み開発者のニーズに対応し、導入しやすく費用対効果の高いパッケージとして、評価機能を提供します。異種混在型のプロセッシング、マルチコネクティビティ、専用コンポーネントによるAIアクセラレーションを1つの統合ソリューションとして提供し、幅広いアプリケーションをサポートしながらも、予算に合わせて機能を妥協する必要がありません。
NXPのFRDM i.MX 8M Plusの詳細については、NXPのWebサイトを参照してください。