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コネクテッド・カーは普遍的なものになりつつあり、マッキンゼーのレポートでは、2030年に世界中で出荷される新車の95%がコネクティビティを内蔵していると予測されています。コネクティビティ、そして豊富な車載データは、今日の自動車業界の情勢を突き動かす主要な要因となっています。これらのデータは、運転手の振る舞いや車両のパフォーマンスからさらなる知見を得ることを可能にします。
ただし、そのようなメリットを享受するには、ビークル・ツー・クラウドのデータ管理戦略が重要となり、OEM各社は、車両のエッジ ・デバイスとクラウド・コネクティビティを統合する方法を模索しています。OEM各社は、進化するIoT、AI、データ分析を活用して車両のパフォーマンスとカスタマー・エクスペリエンスをともに向上させることを目指しています。
事前構築による統合(ハードウェアとクラウド・プロバイダ)は、市場投入までの時間の短縮に貢献します。一方で、アプリケーションを構築する際に開発者や顧客(自動車メーカー)が直面するコネクティビティとセキュリティの課題は、依然として広く立ちはだかっています。S32K3向けAWSライブラリは、安全(S32K3の安全機能による)でセキュアな統合を提供することで、この課題に対処します。
この統合では、車をエコシステムの一部として捉えることが極めて重要であり、エコシステムの構築はその最も重要な側面、すなわち適切なパートナーの選択というところに行き着きます。NXPにとって、その適切なパートナーとはAWSです。S32K3向けAWSライブラリは、車両における統合に焦点を当てた新たな領域の拡張機能を解き放つものであり、お客様のエンゲージメントの拡大と加速を意図しています。
S32K3は、自動車にシームレスなコネクティビティとリアルタイム処理をもたらすNXP製車載エッジであり、自動車を単なる車両以上のものに変容させます。
AWSライブラリは、車両とクラウド間にあるギャップの橋渡しをします。デバイスをリアルタイムでクラウドに接続し、1秒あたり数百万件ものメッセージを処理して、シームレスな通信を可能にします。
AWSライブラリは、車両およびクラウドのデータの取得、処理、および保存のためにNXPのS32K3と統合されます。S32K3は、MQTTを介してAWS クラウドに車両のデータを送信します。このデータには、バッテリーのパラメータ、センサの詳細、モータの状態、診断データ、外部の音響、ネットワーク性能の詳細などが含まれます。クラウドに送信されたデータは、クラウド上のAI/MLとクラウド・サービスを活用して処理、分析、および対処されます。これにより、高度な車載診断、音声認識、音響モニタリング、フリート管理、最新のデータ駆動型サービスなど、コネクテッド・カーのユース・ケースが大幅に増える可能性があります。その結果、モビリティ・カンパニーや保険会社は新しいビジネス・モデルを創出し、運転手に車両の状態や運転挙動に見合ったコスト削減のメリットを提供できるようになります。また、自動車メーカーも、車両のセンサなどのデータを活用して、車内と車両周囲のリモート・ビューなど利便性、安全性、セキュリティを向上させる新しいユーザー・エクスペリエンスや機能を提供することが可能になります。
ビークル・ツー・クラウドのデータ管理は、ソフトウェア・デファインド・ビークルにとって不可欠です。S32K3向けAWSライブラリを活用して、車載エッジ・ノードをクラウドに接続しましょう 。
さらに、Device Shadowサービスを介して、デバイスやアプリケーションの状態がAWSデバイス・シャドウに保存されます。これはデバイスがオフラインの間にクラウド・アプリケーションによって取得や更新ができ、この際クラウド上ではECUの状態が最新のデバイス情報でミラーリングされています。
自動車メーカーは、クラウドのMLを使用して車両のデータをリアルタイムでモニタリングすることで、車両がエラー・コードを認識したりエンジン警告灯を表示したりする前に問題を見つけることができます。
エッジ・デバイスのOTA機能によるソフトウェアのアップデートが可能になります。つまり、走路から離れなくても運転したままの状態で最新のアップデートを入手できます。自動車メーカーは、OTAアップデートにより、パフォーマンスの向上、バグの修正、さらには新機能の追加などのために、車両のソフトウェアをリモートでアップデートすることができます。そのため、サービス・センターまで運転して出向く必要がなくなります。
コネクテッド・カーで直面する最も大きな懸念とは、サイバーセキュリティの脅威と言ってほぼ間違いないでしょう。ネットワークに接続されたあらゆるデバイスがハッカーの標的となるおそれがあり、コネクテッド・カーも例外ではありません。コネクティビティが広範になるほどハッキングに対する脆弱性が高まり、運転手にとってセーフティとセキュリティがより深刻な懸念となるのが明らかです。
このような場合にAWSライブラリを備えたS32K3が真価を発揮し、エンド・ツー・エンドの暗号化を提供することで、車両のデータをセキュアに保ちます。さらには、Device Defenderを介してエッジ・デバイスが継続的に監視されるため、車両は潜在的なサイバー脅威から保護されます。
AWS IoT Coreは、S32K3からAWS IoT Greengrassを実行している他のパワフルなデバイス(S32G車載ネットワーク・プロセッサ)へのセキュアな接続をサポートします。このデバイス間のセキュアな接続により、エッジ・プロセッシングとクラウドベースのアプリケーション・ロジックの管理をデバイス内でローカルに実行できます。NXPのGoldVIP S32G車載統合プラットフォームは、車両エッジでのS32GプロセッサのパワーをAWSクラウドと組み合わせて、評価、ソフトウェア開発、ラピッド・プロトタイピングのためのサービスへのアクセスをお客様に提供します。さらに、Amazon SageMakerおよびAmazon SageMaker Edgeを使用して、最適化された機械学習モデルをNXPのS32Gプロセッサ上でビルド、トレーニング、実装することができます。NXPでは、車両でのディープ・ラーニング推論をサポートするAutomotive SPICE準拠のeIQ™Autoツールキットも提供しています。
ソフトウェア・デファインド・ビークルへと向かう自動車業界の潮流に伴い、バリュー・チェーン全体にわたるパートナー・エコシステムの構築が極めて重要になっています。NXPとAWSは、このコネクティビティの新時代への移行を加速するソリューションを開発し、車の運転がいかなるときもスマートでセキュアかつシームレスとなる未来への取り組みを続けています。
NXP Semiconductorsに10年近く在籍し、ソフトウェア・エンジニアとして勤務。現在は、AWSライブラリとNXPのS32K3 MCUファミリの統合の分野で開発を率いることに尽力しています。組込みソフトウェアの開発とクラウド・コネクティビティに関する知識を業務に活かし、車両のデバイスとAWSクラウド・サービス間のセキュアなコネクティビティを実現させています。
Radek Sestakは、電子技術エンジニアとして15年以上のキャリアを有しています。NXPにはテクニカル・サポート・エンジニアとして入社し、13年間在籍しています。現在は、車載プロセッシング・グループのマーケティング・チームのアプリケーション・エンジニアとして、マス・マーケットのお客様や販売代理店の車載プロジェクト開発を支援しています。