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NXPは、毎年6月20日に迎える「World Wi-Fi Day」の開催を祝しています。World Wi-Fi Dayとは、世界中のコミュニティをつないでいるWi-Fiの役割を称える、地球規模での取り組みです。今回のWireless Wednesdayスペシャル版では、NXPのワイヤレス・コネクティビティ・エンジニアリング担当VPであるTim Donovanをゲストに迎え、Wi-Fi規格とその進化、発展について語り合います。
Haley:Wi-Fiは何十年にもわたって広く利用されており、留まることなく成長し続けています。他の通信プロトコルが普及しているにもかかわらず、Wi-Fiがワイヤレス・コネクティビティの主要な手段であり続けている理由は何でしょうか?
Tim:Wi-Fiが衰えることなく長寿化し、数あるワイヤレス・テクノロジの中でもその意義を保ち続けていることにはいくつかの理由があります。1つ目が普遍性です。Wi-Fiは、20年以上にわたって社会における接続の問題を解決し続けており、その歴史とともに、他のどのワイヤレス・コネクティビティ・テクノロジよりも多くのユース・ケースにソリューションを提供してきた実績があります。人々は、職場や家庭だけでなく、宿泊先のホテル、立ち寄るコーヒー・ショップ、さらには旅先の空港や飛行機など、あらゆる場所でWi-Fiが利用できることを期待します。
2つ目は、Wi-Fiが対応できる膨大な数のユース・ケースです。Wi-Fiの豊かな歴史とともに、最終製品と半導体の両方を提供する企業は、高スループット、低レイテンシ、低消費電力、システムレベルでの大容量などが要求されるユース・ケースへの対応に取り組んできました。これらの問題の解決を通じて培われた経験は、Wi-Fiを極めて広範なユーザー・ニーズを満たすことができるものへと進化させました。Bluetooth、UWB、LoRaなど、その他のワイヤレス・プロトコルも長年にわたって普及および採用されていますが、これらのテクノロジはそこまで多様なアプリケーションをサポートしておらず、その採用はWi-Fiの普遍性に匹敵するまでに至っていません。
3つ目は、Wi-Fiは発展し続けているという点です。Wi-Fiは、世代が進むにつれて、スループット、ネットワーク帯域幅、セキュリティ機能などのすべてが向上および進歩しています。これにより、定義される世代ごとにWi-Fiデバイス向けの新たな規格が誕生しています。
Haley:Wi-Fi規格は継続的に改善されており、すべての世代が前世代よりも進歩しています。世代間で何が大きく変わっているのでしょうか?
Tim:改善において重視されている2つの主要領域が、通信速度と容量です。より高いスループットを実現するには、規格を物理層の速度の点で進化させるだけでなく、スループットの大幅な改善によりユーザー・エクスペリエンスを向上できるようプロトコルの効率を改善する必要があります。たとえば、4K QAMを追加して物理層のデータ・レートを2.882 Gbit/sまで上昇させた場合、元のWi-Fiプロトコルを使用する160 MHz 2x2 Wi-Fiデバイスで達成可能なUDPスループットは51 Mbit/sになります。もちろん、規格の多くのバージョンでは、同じ2.822 Gbit/sの物理層データ・レートを使用して2.607 Gbit/sのUDPスループットを実現できる、さまざまな種類のアグリゲーションを導入するためにプロトコルに変更が加えられています。純粋な「通信速度」の改善に向けても、プロトコルをより効果的なものに強化する必要がありました。
速度と容量以外にも、Wi-Fiの継続的な進化は、セキュリティの強化、堅牢性、通信速度と通信範囲のトレードオフの解消、測距機能、デバイス検出機能、メッシュ構成、ピア・ツー・ピア接続、ローミング性能の強化、位置特定、省電力機能(802.11省電力およびTWTなど)など、さらに多くの幅広い利点をもたらします。
これまで、規格の主要なリリースは約4年のサイクルで行われています。Wi-Fi 6は2019年にリリースされており、Wi-Fi 7は最近の2024年にリリースされました。次のWi-Fi 8のリリースは2028年に予定されています。
Haley:NXPは、最新のWi-Fi世代に対応するソリューションを提供しています。同様に新しいWi-Fi規格の要件を満たしている競合他社と比較して、NXPはどのように差別化された価値を提供していますか?
Tim:Wi-Fi製品を量産化し、規格で規定されていない特定のレベルのパフォーマンスを達成することには、多くの側面があります。Wi-Fiチップセットを評価する際の一般的な指標は、範囲内で動作するときに維持できる速度です。ピーク性能もあれば、範囲、障害物、その他の環境要因を考慮した、規格で規定されていない実用性能もあります。設計の導入における多くの側面が、この実用性能や、範囲内でデバイスが維持できる速度、最適な性能の実現などに影響を及ぼす可能性があります。同じWi-Fi規格に対応していたとしても、異なるWi-Fiデバイス間で性能がさまざまであるのはこのためです。この点において、NXPのWi-Fiソリューションは非常に競争力があり、高い信頼性とパフォーマンスを提供します。
他のワイヤレス・テクノロジとの共存も、差別化を可能にしているもう1つの領域です。ご存知のように、NXPのほとんどのコネクティビティ・デバイスは、Wi-Fi、Bluetooth、および802.15.4のトライラジオをサポートしています。これらの無線は、共存によって相互に干渉したり外部の無線と干渉したりすることなく、同時に動作することができます。3種類のそれぞれの無線で必要なレイテンシや帯域幅を達成する方法は、規格では規定されておらず、NXPの製品を明らかに差別化しています。
NXPは、Wi-Fi規格の規定を超えて高い性能を発揮する、差別化されたWi-Fiソリューションを提供します。これらのソリューションがどのようにコネクティビティを向上させるかをこちらでご覧ください。
困難なユース・ケースのサポートも、差別化を実現しているもう1つの領域です。たとえば、CarPlayをサポートしているときに、いくつかの補助リンクをサポートすると同時に、ノイズの多い動作環境にあるCarPlayのリンクに必要なレイテンシを実現できることは、明らかに差別化された領域です。さらに、幅広い温度範囲全体でパフォーマンスを発揮すると同時にBOMコストを削減できる統合パワー・アンプも、また別の差別化領域です。これらのいくつかのパフォーマンス指標以外に、カスタマー・サポートも提供されています。ワイヤレス・テクノロジは、お客様にとって必ずしも開発が容易なものではありません。規制当局や標準化団体によって要求される認証があります。したがって、このようないくつかの困難な課題についてお客様をサポートするインフラストラクチャやモジュール・パートナーを有していることが、NXPの差別化のもう1つの領域です。
Haley:NXPは、Wi-Fi規格を発展させ、このテクノロジの進化に貢献するために、業界内の他の企業とどのように連携していますか?
Tim:新しいWi-Fi規格の策定は、緊密な連携を通じて複数年にわたって進められるプロセスであり、IEEE、WFA(Wi-Fiアライアンス)、NXP、およびその他のWi-Fiチップ・メーカーやデバイス・メーカーからのチームが関与しています。
まず、業界の動向や共通の問題に基づいて新たな規格の技術仕様を策定するために、タスク・グループが立ち上げられます。このタスク・グループのメンバーには、業界全体のさまざまな企業(Wi-Fiチップ・メーカーやWi-Fiデバイス・メーカーなど)からのエンジニアや研究者が含まれています。タスク・グループは、機能や改善について提案し、規格のドラフトを作成します。これらの機能の性能および実現可能性がテストされ、ドラフトは何度も改訂が行われます。一方で、WFAは認証プログラムの開発とマーケティングに取り組み、新しい規格を満たすソリューションを構築するチップ・メーカーでは設計作業が始まります。その後、WFAがホストとなって、チップ・メーカーおよびデバイス・メーカーが集まり、これらのソリューションのテストおよびデプロイを実施して、ブランド間での相互運用性を確保し、バグや問題を把握します。
上記のすべてが、NXPやその他のWi-Fiチップ・メーカー、エンドデバイス・メーカーに加え、IEEEやWFAなどの組織を含む、業界各所からの経験と参画を通じて達成されています。Wi-Fiの強化は業界の連携によって実現され、そのようなつながりが機器間のつながりをさらに促進しています。
NXP Semiconductors、ワイヤレス・コネクティビティ・エンジニアリング担当VP
Tim DonovanはNXPのワイヤレス・コネクティビティ・エンジニアリング担当VPを務めており、Wi-Fiの戦略およびソリューションを推進しています。設計とマネジメントにおいて数十年に及ぶ経験を有しており、Marvell Technologyおよび事業部門買収後のNXPにて、ワイヤレス・コネクティビティ・チームを率いる重要な役割を担っています。
NXP Semiconductors、ワイヤレス・コネクティビティ製品マーケティング担当者
Haley Vuは、インダストリアル&IoTアプリケーション向けのWi-Fi、Bluetooth、802.15.4ソリューションを専門とするワイヤレス・コネクティビティ製品マーケティング担当者です。NXPの技術セールス・チームでの経験を活かし、幅広いマス・マーケットにサポートと支援を提供しています。カリフォルニア大学デービス校で電気工学の学士号を取得し、シリコン・バレーを拠点としています。
タグ: テクノロジ, ワイヤレス・コネクティビティ