ソフトウェア・デファインド・ビークル (SDV) の開発が本格化する中で、集中型車載アーキテクチャの進化と電子制御ユニット (ECU) の統合が進んでいます。それらの推進には、SDVの複雑で多機能な動作とリアルタイムの要求を管理できる高性能MCUが必要です。
高性能制御システムを専門とする大手車載機器メーカーのRimac Technology は、次世代ECU用のリアルタイム・プロセッサを必要としていたとき、NXPとS32E2シリーズに目を向けました。その結果、開発を簡素化し、ECUの数を大幅に減らして部品表 (BOM) も削減する集中型アーキテクチャが実現しました。このアーキテクチャは、OEMが高度なドメイン/ゾーン制御アプリケーションを実現するための道筋も提供します。
高性能車載システムの進化
Rimac Technologyは、他の革新的な車載機器サプライヤと同様に、分散型E/Eアーキテクチャが複雑化し、重要な処理のために数百個ものECUと膨大な配線への依存度が高まっている、といった課題に対処する必要がありました。従来のフラットな分散型アプローチでは、それに伴う設計上の障壁を管理できなくなりつつありました。
SDVへの移行においては、ドメイン構成とゾーン構成という2つの設計トレンドが並行して推進されています。ドメインに焦点を当てたアプローチは、スケーラブルで一元化されたソフトウェア開発に重点を置きます。これにより、ソフトウェアの統合が合理化され、ソフトウェア・デファインド・ビークルの増加に対応できるとともに、シームレスなOver-the-Air (OTA) アップデートによって車両のアップグレードが容易になります。ゾーンに焦点を当てたアーキテクチャでは、配線と接続が簡素化され、ケーブルの取り回しが大幅に減って、配線コストが削減されます。このアプローチにより、新しい車載機能の統合も容易になり、収益化の機会が生まれます。
S32ZおよびS32Eリアルタイム・プロセッサは、マルチアプリケーション環境での高性能なデターミニスティック・リアルタイム制御に対する車両のニーズに対応します。S32ZおよびS32Eプロセッサの詳細をご覧ください。
NXPのS32E2によるパフォーマンスとセーフティの向上
Rimacは、この方向への戦略的シフトの必要性を認識し、集中型アーキテクチャへの移行に向けた開発作業を1年間にわたって進めました。これには、現代の自動車プラットフォーム固有の要求に対応できる高度でスケーラブルなハードウェア・ソリューションが必要でした。また、20個以上の個別ECUで構成されるシステム、複雑なソフトウェア統合、重量と消費電力の増加、システム全体の効率の低下といった問題に対処する必要がありました。
性能とコンピューティング要件を満たすことに加えて、設計は厳しい安全基準および規制にも準拠する必要がありました。高性能条件下で長期的な信頼性を維持するためには、熱管理の課題にも対処が必要でした。この取り組みに向けたRimacの最重要要件は、1つのドメイン・コントローラに複数のECUを組み込むために必要な処理能力とリアルタイム応答性を備えた、高性能な車載グレードのMCUでした。集中型アーキテクチャへの移行には、さまざまなドメインにわたって複雑なリアルタイムのアプリケーションを管理できるMCUが必要でした。Rimac Technologyがこの新しいアプローチで最初に考慮したプロジェクトの1つは、かなりの計算能力を必要とするハイパーカー・プログラム であり、それにはNXPのS32E2が理想的なソリューションであることが判明しました。
NXPのS32E2プロセッサを搭載したRimacの集中型ECU(Rimac Technology、2025年)。
NXPのS32E2は、その卓越した性能、拡張性、厳格な安全基準への準拠により、20個以上のECUをわずか3個に統合した集中型アーキテクチャの中核となりました。バッテリー・マネジメントやシート制御から、スマート・キー・アクセス、配電に至るまで、車両制御、パワートレイン、車体機能を担うECUが、3つの合理化されたドメイン制御モジュールに統合されています。この統合により、システムのパフォーマンスが強化されると同時に、信頼性と拡張性が向上し、高度なドメインおよびゾーン制御アプリケーションを備えたSDVアーキテクチャをOEMに提供できます。
安全で堅牢なシステム統合の中核となるのは、プロセッサのコアツーピンの分離メカニズムであり、これはソフトウェアによって定義され、ハードウェアによって適用されます。このメカニズムにより、コア・レベルでタスクを分離できるだけでなく、メモリ、ペリフェラル、ピンなどのリソースを安全にパーティション分割して、ドメイン間の干渉を防ぐことができます。その結果、重要度の異なるワークロード全体にわたってサービス品質を維持できます。また、この分離モデルは、きめ細かいタスク・レベルの障害抑制と復旧をサポートし、SoC全体で復元力のあるシステム動作を可能にします。これはさらに統合ハードウェア・セキュリティ・エンジンによって補完され、セキュア・ブート、暗号鍵管理、ランタイム・セキュリティ・サービスなどの重要なセキュリティ機能を提供します。
S32E2のマルチコア・アーキテクチャは、最大1 GHzの処理速度を実現し、複雑なリアルタイム・アプリケーションに不可欠な高性能の処理を確保します。さらに、このプラットフォームは、高精度なモータ制御とアクチュエーションを提供する高分解能ADコンバータやタイマなどの高度な制御システムを統合しています。FlexLLCEエンジンおよび内蔵された車載イーサネット・スイッチにより、CAN FDやLINの包括的な通信サポートが高速化され、ネットワーク統合がさらに合理化されて、柔軟性と効率性が向上します。また、S32Eプラットフォームは、ISO 26262、ASIL D、ISO 21434のサイバーセキュリティ規格に準拠しており、重要なシステムに対する堅牢なフォルト・トレランスを提供し、最適なセーフティおよびセキュリティ・コンプライアンスを保証します。
NXPは、Rimacのエンジニアリング・チームと緊密に連携して、重要な実装上の課題を克服しました。これには、複数の車両ドメインにわたるシームレスな統合を実現する柔軟性の高いAUTOSAR®ベースのフレームワークの開発、本番環境に対応した設計に向けたハードウェアとソフトウェアの構成の最適化、フォルト・トレランス、電磁環境適合性 (EMC)、安全認証への準拠を確保するためのプロセスの推進などが含まれます。
次世代ドメイン/ゾーンECUの標準を確立
Rimac Technologyのハードウェア設計からソフトウェア開発、量産に至るまでのエンドツーエンドの専門知識とNXPのマイクロプロセッサ技術を組み合わせることで、次世代の自動車プラットフォームに卓越した性能と汎用性をもたらすECUソリューションが実現しました。ECUの将来を見据えて共同で開発された車載アーキテクチャは、シームレスなソフトウェア更新を可能にしながら、将来の自動車プラットフォームのコストを抑え、市場投入期間を短縮し、複雑さを軽減します。