高密度クアッド・フラット・パッケージ (HDQFP) は、普及しているQFPよりもリード密度を高めることでパッケージング・ポートフォリオを簡素化することを目的に、天津のNXPエンジニアリング・チームによって開発された革新的なICパッケージです。
集積回路 (IC) パッケージの目的は、半導体ダイを封止し、ダイの電気接点をプリント基板 (PCB) 上の接続点に接続できるようにすることにあります。ICダイは、銅などの素材からなる複合構造体に半導体ウェハを積層することで製造されます。ウェハはテストされた後でダイごとに切り離され、パッケージ化されます。ICパッケージは、ICそのものと同じくらい重要です。パッケージによって、裸のICが実際に機能する製品に生まれ変わるからです。パッケージには4つの目的があります。1つ目は物理的な損傷を受けないように保護すること、2つ目は腐食から保護すること、3つ目は熱の放散を助けること、そして4つ目は最も重要で、半導体デバイスの電気接点をPCBなどの外部環境に接続することです。システム・エンジニアは、パッケージの機能性と信頼性を評価するだけでなく、価格とパフォーマンスのバランスにも配慮しながら、それぞれの用途に適したパッケージを選択するために多くの時間を費やしています。
パッケージ設計、アーキテクチャ、素材、プロセス、製造装置などのパッケージ・テクノロジは、費用対効果の高い小型化を求める市場ニーズに適応できるよう進化する必要があります。クアッド・フラット・パッケージ (QFP) のような成熟したパッケージ・テクノロジに技術革新をもたらすことは困難ですが、NXPがそれを実現しました。
高密度クアッド・フラット・パッケージ (HDQFP) の革新
信頼性が非常に高いクアッド・フラット・パッケージ (QFP) は、長年にわたり主力のパッケージとして利用されてきました。QFPは低コストながら機械的性能と熱的性能に優れ、信頼性が高く、光学検査にも対応しているため、今後の設計でも大きなメリットがあります。しかし、QFPの欠点はフットプリントにあります。特に、マイクロコントローラに求められるI/Oの種類が増えている現在、それが大きな問題になります。I/Oを増やすためにパッケージ内で大きな面積を確保する必要が生じ、エンジニアはQFPの代わりにエリア・アレイ・パッケージを選択するようになっています。たとえば、ボール・グリッド・アレイ (BGA)、アレイ・クアッド・フラット・ノーリード (QFN) などの、QFNのようにリードを底面にたくし込む高密度版のQFPです。
中国の天津にあるNXPの組立工場 (NXP-ATTJ) のエンジニアリング・チームは、パッケージ周辺のI/O数を最大化しながら、QFPのサイズを大幅に縮小する新しいパッケージとして、HDQFPパッケージを提唱しました。
最初の発案者は、Bai ZhigangとYao Jinzhongでした。さらに、Pang Zingshow、Xu Xueson、Mao Chao、Li Jun、Stephen Leeも協力しています。
基本的なアイデアは、QFPのガルウィング型リードと、プラスチック・リード・チップ・キャリア (PLCC) のJ型リードを、パッケージ本体から延びるリードの2層の隙間で組み合わせることでした。HDQFPではこの構成により、パッケージの周囲のリード数が実質的に2倍になります。個々のリード・タイプからPCBに対して形成された形成物は光学的に検査可能であるため、HDQFPのすべてのリードが光学的に検査可能です。
新しいパッケージ設計を発案しても、そこで終わりではありません。多くの設計とプロセスを繰り返し、多数のルーティング要件と基板分析、モールド・ブリードの問題、新しい機器要件、ワイヤ・ボンドの信頼性、リード・フレームのコスト、ダイの寸法公差、製造可能性と歩留まりなど、さまざまな課題を乗り越える必要があります。それでも、最初に発案した天津のグループから、全世界のNXPの開発部門、製造部門、テスト部門、製品部門、マーケティング部門、販売部門、そしてNXPのリード・フレーム・サプライヤ、機器サプライヤに至るまで、さまざまな人々が数年間にわたりエンジニアリングの工夫と努力を積み重ね、地道に取り組み続けた結果、すべての課題が解決されました。
QFPと比較した場合のHDQFPの利点
- 高いI/O密度:PLCC J型リードとQFPガルウィング型リードの組み合わせ
- 完全な検査性:すべてのリードは完全に検査可能、これはNXPのゼロ・ディフェクトに向けた取り組みを継続するものであり、トータル・クオリティ実現へのコミットメントを示す
- 車載クラスの信頼性:車載アプリケーションとインダストリアル・アプリケーションを想定
- フットプリントの削減:PCB上のパッケージ・フットプリントを47%削減でき、お客様のコストを削減
- パッケージ・ポートフォリオのシンプル化:5種類のQFPボディ・サイズが2種類のHDQFPサイズに
- PCB製造設備への追加コスト不要:HDQFPは0.5 mmピッチLQFPと同じPCBライン/スペース設計を使用
- はんだ接合の高い信頼性:初めて不良が見つかったのは9,700サイクル目
- コンポーネント・レベルの信頼性:2x AECグレード1を超える
- QFPと同等の熱耐性と電気的性能
172 HDQFP (16x16) と176 LQFP (24x24) のサイズ比較。ボディ・サイズが最大55%縮小されています。
HDQFPは、NXPが全世界で蓄積してきた知見と多くの人々の献身によって生まれた成果であり、その実現の裏には、高度な技術ノウハウ、市場分析、強力な顧客関係、広範な顧客支援などがありました。今後、量産が開始されます。HDQFPの詳細については、こちらを参照してください。
Chip Scale Reviewのコラム 「Emerging Technologies」(2021年9/10月号の12~18ページ)では、HDQFPパッケージ開発の経緯と、車載アプリケーションでのゼロ・ディフェクト推進にも対応する優れたパッケージ・ソリューションを探求するエンジニアリング・チームについて、詳しく紹介しています。また、こちらの技術記事(2021年11/12月号の18~24ページ)では、信頼性テスト、構成分析、検査可能性評価、そして機械的、熱的、電気的シミュレーションによるHDQFPの評価に関するテクニカル・データ概要をご覧いただけます。
HDQFPは、2021年の第23回IEEEエレクトロニクス・パッケージ・テクノロジ・カンファレンス (EPTC) で発表されました。さらに、デバイス・パッケージに関する第17回iMAPS国際会議、および第54回マイクロエレクトロニクス国際シンポジウムでも発表されました。HDQFPは2022年に開催される第72回IEEEエレクトロニクス・コンポーネントおよびテクノロジ・カンファレンスでも取り上げられる予定です。
S32K3が最初の製品
S32K3マイクロコントローラ・ファミリ(S32K製品ラインナップに加わる新製品)は、NXP MCUとして初めて画期的なHDQFPパッケージを採用し、車載アプリケーションの厳しい要件を満たしながらI/O密度を高めます。現在、S32K3 MCUは100 10x10 mm HDQFPと172 16x16 mm HDQFPで提供され、エクスポーズド・パッドの有無を選択できます。
詳細については、「NXPは新型S32K3 MCUで車載ソフトウェア開発のコストと複雑さの問題に取り組む」を参照してください。