現在の高度に相互接続された世界では、IoT (Internet of Things) デバイスのセキュリティ機能がこれまで以上に重要になっています。インダストリアルIoT (IIoT) やスマートホーム・テクノロジは進化し続けており、センシティブ・データ(機密の個人情報など)を保護し、ユーザーからの信頼を維持するためには、堅牢なセキュリティ設計を確保することが不可欠です。
この記事では、IIoTおよびスマートホーム・デバイスのセキュリティの基盤となる、以下を含む極めて重要な認証および標準について説明します。
- IoTプラットフォームのセキュリティ評価基準 (SESIP)
- プラットフォーム・セキュリティ・アーキテクチャ (PSA)
- 無線機器指令 (EU RED)
- インダストリアル・サイバーセキュリティ規格 (IEC 62443)
- 連邦情報処理標準 (FIPS 140-3)
これらの認証およびコンプライアンス要件を理解し、遵守することで、開発者は最も高いセキュリティ・ベンチマークを満たすセキュアで信頼性に優れたコネクテッド製品を構築できるようになります。
1. SESIP
SESIP は、コネクテッド・デバイス向けに策定されたセキュリティ評価方法です。ほとんどのワイヤレス製品に対して最も関連性の高いSESIP保証レベルは、SESIP-2とSESIP-3です。
SESIP保証レベル2
SESIP-2は、中程度の保証を提供します。このレベルには、クローズド・ソース・プラットフォームに適用される最高レベルのブラックボックス・ペネトレーション・テストが含まれます。例えば、IW610はSESIP-2認証取得済みです。
SESIP保証レベル3
SESIP保証レベル3 (SESIP-3) は、かなり高いレベルの保証を提供します。このレベルには、従来のホワイトボックス脆弱性分析が含まれ、時間制限付きソース・コード分析と時間制限付きペネトレーション・テストを組み合わせて構成されています。例えば、RW612はSESIP-3認証取得済みです。
IIoTおよびスマートホームとの関連性
NXPは、Wi-Fi / Bluetooth / 802.15.4ソリューション・プロバイダとして、SESIP認証により、コネクティビティ用のSoCやIPがセキュア・ブートやセキュアな通信などの必須セキュリティ機能要件 (SFR) を満たしていることを証明できます。
デバイスのOEMは、SESIP認定コンポーネントを再利用することで製品の認証取得の負担を軽減できます。
2. ArmによるPSA
PSA認証 では、Armによって定義されたプラットフォーム・セキュリティ・アーキテクチャ (PSA) に厳密に準拠していることが要求されます。PSA認証は、ソフトウェアの確実な分離、セキュア・ブート、暗号化処理、および基本的な攻撃への耐性を証明します。
PSA認証レベル2
PSAレベル2は、リモートでのスケーラブルなソフトウェア攻撃に対する保護を提供し、物理的な攻撃を受ける可能性が低いIoTデバイスに適しています。
PSA認証レベル3
PSAレベル3は、物理的な攻撃ならびにソフトウェア攻撃に対する保護を提供します。このレベルは、スマート・ロックや決済システムなど、さまざまなタイプの攻撃を受けるリスクが高いデバイスに最も適しています。
PSAとSESIPの相違点
PSAはSESIPの評価方法を採用していますが、PSAはArmのリファレンス・アーキテクチャとの適合性を測定し、SESIPはセキュリティ機能の範囲をより柔軟に定義しているという主な違いがあります
SESIPがフレームワークである一方で、PSAはArmによるブランディング/アプリケーションです
PSA認定レベル3は、物理的な攻撃ならびにソフトウェア攻撃に対する保護を提供し、これら両方のタイプの攻撃に対して脆弱なスマート・ロックなどのアプリケーションにとって極めて重要です。
RW612ワイヤレスMCUは、PSA認定レベル3とSESIPレベル3の両方に準拠しており、差別化されたセキュリティ・コンプライアンスを提供します。RW612の詳細はこちら。
3. EU RED、第3条 (d/e/f)
無線機器指令 (RED) は、EU域内の無線対応デバイスに対する必須要件を規定するもので、特に第3(3)条においてサイバーセキュリティ、プライバシー、および詐欺からの保護について定められています。
2025年8月から、以下の必須要件が施行されます。
第3.3条 (d) ネットワーク上の攻撃を防止および軽減することを目的としたネットワーク保護。 |
第3.3条 (e) 個人データを処理できるすべての無線機器におけるプライバシー保護。 |
第3.3条 (f) 金銭の送金が可能なインターネット接続デバイスにおける詐欺からの保護。 |
アクセス制御 |
アクセス制御 |
アクセス制御 |
認証 |
認証 |
認証 |
セキュアなアップデート |
セキュアなアップデート |
セキュアなアップデート |
セキュアなストレージ |
セキュアなストレージ |
セキュアなストレージ |
セキュアな通信 |
セキュアな通信 |
セキュアな通信 |
暗号鍵管理 |
暗号鍵管理 |
暗号鍵管理 |
既知の悪用された脆弱性がないこと |
既知の悪用された脆弱性がないこと |
既知の悪用された脆弱性がないこと |
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イベントの記録 |
イベントの記録 |
暗号化のベスト・プラクティス |
暗号化のベスト・プラクティス |
暗号化のベスト・プラクティス |
ネットワーク・インターフェースの構成と文書化 |
ネットワーク・インターフェースの構成と文書化 |
ネットワーク・インターフェースの構成と文書化 |
関連するネットワーク・インターフェースを介したサービスの利用制限 |
関連するネットワーク・インターフェースを介したサービスの利用制限 |
関連するネットワーク・インターフェースを介したサービスの利用制限 |
入力の検証 |
入力の検証 |
入力の検証 |
レジリエンス |
データ消去 |
入力の検証 |
トラフィック制御 |
ユーザー通知 |
機器の完全性 |
これらの要件は、デバイスのサイバーセキュリティの属性を強化することを目的としており、無線機器の保証および信頼性を向上させ、ユーザーとネットワークの双方の安全性を高めることを重視しています。
適合性と認証:
- デバイスには適合性評価(自己申告または認証機関の関与)が必要となります
- 初期の評価は、コモン・クライテリアや欧州電気通信標準化機構によるETSI EN 303 645、およびIEC 62443に基づいていました。現在では、EN-18031がEU RED準拠のための整合ベンチマークとなっています
- コネクティビティ・ソリューションは、OEMがRED第3(3)条を満たすために必要となるセキュリティ/サイバーセキュリティ機能をサポートする必要があります
NXPの最新のWi-FiソリューションであるIW610 Wi-Fi 6トライラジオは、RED認証を取得済みです。IW610の詳細はこちら。
4. IEC 62443
IEC 62443は、コンポーネント、システム、組織的プロセスの各パートから構成される、インダストリアル・オートメーションおよび制御システム(Industrial Automation and Control Systems:IACS)のセキュリティ保護のための規格です。チップ・ベンダーは、TUVやDEKRAなどの認証機関を通じて、個々のコンポーネントのIEC 62443-4-2認証を取得することができます。
IIoT/スマートホームとの関連性:
- 重要インフラ:スマート・エネルギーやスマート・ビルディングなどの重要なインフラに導入されるIIoTシステムにおいて重要性が高まっています
- コネクティビティ・コンポーネント: Wi-Fi、Bluetooth/BLE、IEEE 802.15.4は、システムレベルでIEC 62443-4-2に準拠するために、セキュアな通信、認証、ファームウェア・アップデート、およびログ記録機能をサポートする必要があります
5. FIPS 140-3
FIPS 140-3は、FIPS 140-2に続いて策定された、暗号モジュールに関する連邦情報処理規格の最新バージョンです。
- セキュリティの強化:FIPS 140-3は、暗号モジュールに関する標準化されたフレームワークを提供し、機密性の高い情報の整合性、機密性、および可用性を確保します
- 信頼性およびコンプライアンス:FIPS 140-3に準拠している組織は、高度なセキュリティ規格に対する取り組みを示すことで、お客様やパートナーとの信頼関係を築くことができます
Cryptographic Algorithm Validation Program (CAVP)
CAVPは、AES、SHA、ECCなど個々の暗号化アルゴリズムを認定します。FIPS 140-3認定の前提条件となっています。チップ・ベンダーは、CMVP認証に向けて完全なモジュールに統合する前に、CAVPを介して暗号化IPの事前認証を取得することが多くあります。
FIPSサポートの言明
FIPSのサポートを言明するには、モジュールがNIST Crypotographic Module Validation Program (CMVP) に掲載される必要があります。これには、独立したテストの実施と試験機関へのレポートの提出が求められます。
お客様向けのセルフテスト
(Wi-Fi、Bluetooth/BLE、802.15.4などの)コントローラで使用されるFIPS準拠の暗号化ライブラリは、オンデマンドでセルフテストを実行して、整合性の検証および暗号化処理の修正を行います。
まとめ
セキュアなIIoTおよびスマートホーム・デバイスを開発するには、セキュリティ関連の認証および標準について理解することが不可欠です。これらの認証は、コネクテッド製品のセキュリティと信頼性を強化するだけでなく、消費者や利害関係者との信頼関係の構築も促進します。IoTエコシステムは進化し続けており、コネクテッド・テクノロジの未来を守るためには、積極的にセキュリティ規格の先を行くことが重要となります。