車内ヒューマン・マシン・インターフェース (HMI) の進化により、特にセーフティ、ユーザー・エクスペリエンス、自動化の統合が進み、ドライバーと自動車の相互作用の仕組みに変革が起きています。NXPのi.MX 95アプリケーション・プロセッサは、複雑な自動車環境向けに調整されたスケーラブルで安全規格に準拠した性能により、この変革をサポートしています。
自動車業界でHMIの変革を促進している主な要因の1つが、機能安全です。規制機関は、複雑な車両システムの基準を厳格化するよう求めています。これは、Euro NCAP (New Car Assessment Programme) などでドライバー監視システム(Driver Monitoring System:DMS)に重点が置かれ、飲酒運転や脇見運転を検出できるシステムを奨励する計画が立てられていることからも明らかです。また、米国運輸省道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration:NHTSA)が、ドライバー・エンゲージメントの問題に対処すべくドライバー監視に関する規則制定提案の事前告知(Advanced Notice of Proposed Rulemaking:ANPR)を検討している点にも注目する必要があります。これらのシステムは、先進運転者支援システム (ADAS) の感度の調整や回避操作の開始などのアクションをトリガします。信頼性の高いドライバー状態検出を重視するEuro NCAPの段階的アプローチと、NHTSAによるドライバー・エンゲージメント指標への取り組みは、DMSの重要性の高まりを際立たせています。
このようなセーフティへの重点的な取り組みから、特に車載クラスタで使用される従来型の品質管理(Quality Management:QM)ディスプレイ・ソリューションの限界が明らかになっています。セーフティクリティカルなアプリケーションが増加するにつれ、ディスプレイの需要も高まります。従来のソリューションではそれらの要件に対応しきれないため、より堅牢なディスプレイ・テクノロジが必要です。
SAEレベル3 (L3) の自律性の導入に伴い、HMIが担う役割の重要性が増します。SAEレベル3の車両自動化では、ドライバーは制御を手放すことができますが、いつでもシームレスに制御を再開できるよう準備しておく必要があります。このような制御の引き渡しには、明確で直感的なHMIキューが必要です。HMIは、車両の状態、環境、ドライバーの対応についてタイムリーで明確な情報を提供する必要があり、あいまいさは重大な安全性の問題につながります。
安全なSAEレベル3の導入で最も重要なのは、堅牢なHMIです。ドライバーが能動的に運転していない場合でも、ドライバー・エンゲージメントを確保しなければならないため、触覚フィードバック、コンテキスト情報、パーソナライズされたプロファイルなどを含む、単純なアラートにとどまらない革新的なソリューションが必要になります。
イノベーションとコネクティビティという推進力を得て、人間と自動車の相互作用のあり方が見直されています。
車内HMIの進化は、統合されたプロアクティブな車両セーフティの実現に向けた、根本的な変化と言えます。自動車業界は高度なテクノロジの活用や、機能安全規格への準拠を通じて、人間と自動車の相互作用がシームレスで直感的かつ安全なものになる未来を築いています。これを実現するには、あらゆる利害関係者が一丸となって取り組む必要があります。
DMSをケース・スタディとして使用し、機能安全に重点を置いて、車内HMIの要件の変化に対応できるアプリケーション・プロセッサの設計方法を探っていきましょう。
ドライバー監視システム(DMS)とは
DMSはドライバーの行動を監視し、注意散漫や疲労が検出された場合はドライバーやシステムに警告を発します。信頼性の高いアイトラッキングと視線検出を使用して注意力が低下していないか継続的に監視し、居眠り運転を検知します。それに加え、DMSはパーソナライズされた設定に従ってドライバーを識別できます。リアルタイムのセンサ・データ処理を確保することで、タイムリーに警告を出せるという点も重要です。
DMSの機能安全の側面に関して、セーフティクリティカルなECUの直接制御(レベル2/3の自動運転など)はNXPの取り組みの範囲外ですが、解説した原理を拡張することはできます。NXPは、将来統合される可能性を認識しながらも、スタンドアロンの警告システムとしてのDMSに焦点を絞っています。そうすることで、DMSの範囲内で特定の機能安全の課題に対処できます。
これらの課題に対処するうえで最適なソリューションが、NXPのi.MX 95アプリケーション・プロセッサ・ファミリです。機能安全を中核に設計されたi.MX 95は、ISO 26262:2018に基づくASIL D体系的指標とASIL Bランダム指標、およびIEC 61508:2010に基づくSIL-2指標を対象としています。リアルタイム・セーフティ・ドメインにより、セーフティクリティカルなタスクを個別に実行できるため、DMSのような複雑なHMI環境でも信頼性に優れた性能を確保できます。このプロセッサのアーキテクチャは、特定条件に依存しない安全要素(Safety Element-out-of-Context:SEooC)の開発に対応しており、モジュール式のセーフティ機能の統合に最適です。TÜV SÜD認証の取得が進められているi.MX 95は、スケーラブルで将来を見据えた安全規格準拠の車内システムを構築するうえで、堅牢な基盤となります。
ドライバー監視システムの機能安全コンセプト
NXPのDMS向け機能安全コンセプトには、情報フローとASILについての概要が示されています。プロセスは画像の取得 (ASIL-B) と送信 (ASIL-B) から始まります。画像処理 (ASIL-B) では、注意散漫や疲労などを分析して、ドライバーの状態を判定します。その後、処理された情報が送信 (ASIL-B) されます。DMSは、ドライバーへの警告 (ASIL-A/B) や他のシステムへの通知、ADASの調整や制御停止の開始などのアクションを実行できます。
上記は、HMIケース・スタディのDMS要件です。 ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
注:ここに示すASILレベルは例示のみを目的としたものです。実際のASIL要件は、ADAS/ADシステム内でのDMSの実装や使用上のコンテキストによって異なる場合があります。
DMSの機能要件とASILの考慮事項
セーフティに重点を置いて、DMSの機能要件とASILの考慮事項を見ていきましょう。
- DMSのワークフローは画像取得(カメラ、解像度、フレーム・レート、視野)から開始される
- 送信は十分な帯域幅と最小限のレイテンシで確実に行われる
- 画像処理(CNNやLSTMなどの機械学習)によってドライバーの状態が判定される
- 精度と処理時間が極めて重要
- DMSはドライバーへの警告(オーディオ/グラフィカル・アラート)と他のシステムへの通知、車両のアクションのトリガ(ADAS調整など)を行うことができる
- ASILの考慮事項:
- 画像取得/警告 (ASIL-B)
- 画像処理/通知 (ASIL-B/ASIL-B/C)
- ADAS/自律システム介入 (ASIL-C/D)
HMIケース・スタディ:DMSの要件。 ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
注:ここに示すASILレベルは例示のみを目的としたものです。実際のASIL要件は、ADAS/ADシステム内でのDMSの実装や使用上のコンテキストによって異なる場合があります。
DMSの技術的コンセプト
ここからは重要な要素に焦点を絞って、DMSの技術的コンセプトを探っていきます。性能要件(画像の解像度、フレーム・レート、処理速度、精度、応答時間など)は、システム目標とASILレベルに合致している必要があります。効率的なDMS設計とは、性能、電力、ダイ面積のバランスが取れている設計です。スケーラビリティと柔軟性が不可欠ですが、i.MX 95プロセッサ・ファミリはスケーラブルなアーキテクチャ、統合されたセーフティ・ドメイン、ASIL B/D要件のサポートによってこれらのニーズに対応しているため、セーフティクリティカルな環境へのDMSの実装に適しています。
機能安全には、潜在的な危険に対処する堅牢なコンセプトも必要です(カメラ/HMIシステム・オン・チップ (SoC) に関するASIL-B、ADAS/ADインターフェースに関するASIL-C/D、ディスプレイ/オーディオに関するASIL-A/Bなど)。複数のハードウェア/ソフトウェア・セーフティ・メカニズム(冗長性、エラー検出、ランタイム監視など)が組み合わされます。OSの選定では、性能と安全性のバランスに配慮します(高性能かつ安全性認定を受けたリアルタイム・オペレーティング・システム (RTOS) が最適)。下の図は、HMI SoC (検知) とADAS/ADユニット(計画、処置)の分離を示しています。これらの要素により、堅牢で効率的なDMSが実現できます。
車内エクスペリエンスの需要の高まりに対処するASIL要件向けのシステム・アーキテクチャ。 ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
注:上記のASILレベルは例示のみを目的としたものです。実際のASIL要件は、ADAS/ADシステム内でのDMSの実装や使用上のコンテキストによって異なる場合があります。
車内HMIの未来を形作る
車内HMIの進化は、安全性に対する需要の高まり、ユーザー・エクスペリエンスの向上、自動運転、技術の進歩、規制の変化、およびイノベーションによって促進されています。こうした状況から、機会と課題の両方がもたらされています。
より高度で安全なHMIへの移行には、技術的コンセプトから機能安全にまで及ぶ、包括的なアプローチが必要です。DMSは、複雑さが伴うシステムの典型的な例です。画像取得からシステム介入まで、各ステージで性能、信頼性、安全性への配慮が求められます。
実行の高速化が不可欠であるため、統合されたシステム・ツー・シリコン設計を通じてチップの実行と性能を最適化し、機能安全を優先的に確保することが最も重要です。そのためには、自動車エコシステム全体で協力してイノベーションに取り組み、NXPのi.MXプロセッサ・ファミリに属する製品のような、高集積かつ効率的な処理ソリューションの開発を促進する必要があります。将来を見据えたHMIを実現できるかどうかは、コラボレーション、厳格なテスト、継続的な改善を行いつつ、特に車載アプリケーションの厳密さを考慮して設計された高度なアーキテクチャを活用することにかかっています。
機能安全は最優先事項であり、次世代のHMIではISO 26262、SOTIF、ASILなどの規格に準拠することが不可欠です。こうした安全性への重点的な取り組みを、製品開発のライフ・サイクル全体に組み込む必要があります。さらに、HMIの機能に欠かせない要素としてAIの活用がますます進む中で、その統合を安全で信頼性の高いものにすることが非常に重要になっています。信頼を築き、そのような高度なシステムの全体的な安全性を確保するには、安全なAIに関するISO PAS 8800のような新しい規格への準拠など、AI固有の安全上の課題に対処することが必須となるでしょう。
HMIの長期的な成功には、拡張性と信頼性が不可欠です。新たな要件に適応し、他の車両システムと統合し、信頼性の高い性能を維持することが重要です。
運転体験を変革し、自動車の安全性を高める車内HMIには、輝かしい未来が待っています。イノベーションを取り入れ、機能安全を優先的に確保し、コラボレーションを促進することで、自動車業界はHMIの可能性を引き出し、より安全でコネクテッドな未来の運転体験への道を切り開くことができます。NXPのi.MX 95プロセッサが、より安全でインテリジェントな車内システムの実現に向けた自動車業界の取り組みにどのように役立つのかを、詳しくご確認ください。