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2027年に適用が開始されるEUバッテリー・パスポートは、セキュアでサステナブルなバッテリーの使用を推進します。NXPとTNOによるSecureBMSは、高度なハードウェア、セキュアなデータ共有、クラウド統合を通じてこれらのニーズを満たし、次世代のエネルギー・システムに向けたトレーサビリティ、安全性、および適合性を確保します。
欧州委員会によって義務付けられたその要件は、2027年2月に適用が開始され、次のカテゴリが対象となっています。
この法律の主な対象となっているコンポーネントが、バッテリーに記録されているパラメータの現在の値を提供するバッテリー・マネジメント・システム (BMS) です。その内部には、機密データをセキュアに保存し、暗号化処理を実行するために設計された耐タンパ・ハードウェア・コンポーネントである「セキュア・エレメント」が追加されています。これにより、充電サイクル、健全性、温度履歴などの詳細な性能データが収集および追跡されます。ただし、バッテリー・パスポートには、セキュアなデータ共有といった新たな要件も導入されています。これは、現行のBMSソリューションでは、適切なセキュリティ機能が不足しているか、一部の機能が法的基準を満たしていないことを意味します。
セキュリティに関しては主に、データの改ざん対策と認証されていないバッテリーの交換という2つの課題が存在します。これら両方のリスクを軽減するには、堅牢な認証プロセスと検証プロセスが必要です。
NXP SemiconductorsとTNO は、これらの課題に対応するために、セキュアなデータ転送機能と効果的なユーザー・アクセス権管理機能を備えたバッテリー・パスポート・デモンストレータを導入しました。このプロジェクトは、BMSハードウェアのリファレンス・デザインに基づいており、バッテリー・エネルギー蓄積システム (BESS) での使用を意図しています。TNOでは、ハードウェアとともにfoxBMSオープンソース・ソフトウェアと回収されたBESSからのいくつかのモジュールを使用して、バッテリー・モジュールからクラウド・データベースにライブ・データを供給するテストベッド設置型システムを構築しています。BMSとクラウド間のセキュアなチャネルに対して、データの改ざんに関する効果的なソフトウェア・テスト・ケースがテストされています。モジュールの認定は、ハードウェアに統合されたセキュリティ機能を介して行われます。
SecureBMSでバッテリー・パスポートへの適合を可能に。統合セキュア・エレメント、暗号化データ処理、およびASIL D安全性を備えたNXPのクラウド接続BMSアーキテクチャを活用することで、EUバッテリー・パスポートの要件を満たすことができます。SecureBMSの詳細はこちら。
NXP BESS-BMSはSecureBMSシステム・アプローチの基盤を形成し、次の3つの主要コンポーネントを搭載しています。
このシステムのBMUには、3つのArm® Cortex®-M7ベースのコア(うち2つはロックステップコア)を搭載したNXP S32K358マイクロコントローラが組み込まれています。この設計により、BMSソフトウェアをシングル・コアで直接実行できるようになり、ASIL Dの安全基準を満たすとともに、2つの異なるコアで2つの別個のスレッドを比較する必要がなくなります。
同じBMU PCB上のマイクロコントローラを補完しているのが、I2C接続を介してMCUとインターフェース接続するNXP NCJ37-BMSセキュア・エレメントです。NCJ37-BMSセキュア・エレメントは、車載向けAEC-Q100およびコモン・クライテリア EAL6+認証を取得しているほか、高度にセキュアなアプリケーション向けの業界標準も満たしており、決済や旅券などにも使用されています。NCJ37-BMSには、認証を介してバッテリー・パスポート固有のデータ形式をセキュアに保存および管理できる専用のSecureBMS JavaCardアプレットが付属しています。さらに、このセキュア・エレメントは、BMSシステムの電源がオフの場合や12 V電源から切り離されている場合であっても、フィールドから給電されるパッシブNFCインターフェースを介して外部デバイスと通信することができます。これにより、ユーザーはNFC対応スマートフォンなどのデバイスを使用し、デジタル製品パスポート規格に従ってバッテリー関連の情報をセキュアに読み取ることができるようになります。
この高度なアーキテクチャは、BMUの堅牢な安全性とセキュリティ機能を際立たせ、要求の厳しいアプリケーションに最適なものにしています。
BMSソフトウェアは、完全な機能安全を備えたセル電圧と電流の測定を可能にし、ハードウェアを補完します。これには、セキュア・エレメントと通信したり、充電状態アルゴリズムや健全性アルゴリズムによって処理されたデータをメモリ内に保存したりするためのインターフェース・ソフトウェアが含まれています。また、このパッケージには、セキュア・エレメントとの通信用のホスト・ライブラリと、クラウドへの送信データを暗号化するための暗号化ライブラリも備わっています。この合理化されたソフトウェアによって、データの完全性、セキュリティ、および外部システムとの統合が強化されます。
より大規模な複数のバッテリー・システムでは、セキュア・エレメントによってセキュアなクラウド・エンドポイントを確保することもできます。バッテリー内に1つ設けることで、物流、保守点検、再製造、またはリサイクルの過程にあっても、バッテリー・パスポートの法的要件である独立したストレージへのローカル・コピーの保存ができるようになります。クラウド接続は、NXP GoldBoxリファレンス・デザインをベースとしたゲートウェイを介して確立され、これによりAmazon Web Services (AWS) やその他のクラウド・プラットフォームへの直接アクセスが実現します。
セキュアなクラウド接続BMSソリューションへの移行は、バッテリーのサステナビリティを大きく進歩させます。NXPのBESS-BMSなどのシステムは、セキュリティやライフサイクルのトラッキングといった課題に対応することで、バッテリーの効率だけではなく透明性と説明責任を確保するというEUバッテリー・パスポートの目標の達成をサポートします。NXPは、最先端のテクノロジおよび強固なパートナーシップを通じて、よりスマートで、より安全かつ持続可能なエネルギーの未来を築くことに寄与します。
NXP Semiconductors、製品およびマーケティング・マネージャ
Marc Manningerは、半導体業界で10年の経験を持つ製品およびマーケティング・マネージャです。サン・パウロ大学とグラーツ工科大学でソフトウェア工学と経営学の修士号を取得しています。専門職としてのキャリアでは、スマート・カー・アクセス向けのさまざまなソフトウェア・プロジェクトと製品に取り組んできました。現在は製品およびマーケティング・マネージャとして、車載用UWB、NFC、セキュア・エレメントを担当しています。
NXP Semiconductors、電動化担当シニア製品マネージャおよびASEMアーキテクト・リード
15年以上にわたって電気自動車 (EV) のバッテリーとパワートレインの開発に携わった後、2023年に電動化システムの製品開発を率いるためにNXPに入社しました。現在は、革新的なプロセッシング・ソリューションやアナログ・システム・ソリューションを活用して、車載システムの開発および顧客との強固なつながりの構築を支援しています。
サステナビリティ、買い求めやすさ、明確なコミュニケーションがEVの世界を前進させる重要な要素であり、電気の未来への道のりをより協調的なものにし、関わるすべての人のためになるものと信じています。