米国運輸省はロサンゼルスのとある場所で、都市の交通インフラのデータ駆動型デジタル・ツインを作成するためのソリューション開発に協力しています1。世界中の他の場所でも、自動車におけるデジタル・ツインのユース・ケースが拡大しています。自動車産業は実際に、広範な能力を備えたデジタル・ツインの統合を推進しているいくつかの産業のうちの1つです。
電動化や自動運転などの新しいトレンドにより、今日の車両は、絶えず進化する複数のサブシステムから構成される大きなシステムと捉えることができ、多くの場合は最大100以上もの異なる電子モジュールを搭載しています。このようなサブシステムの複雑さから、リアルタイムの仮想表現を使用する必要性が生じています。それがまさにデジタル・ツインです。これは、現実世界の条件をシミュレートし、仮想環境でさまざまなシナリオをテストするために使用できる、物理オブジェクトまたはシステムの仮想的なレプリカです。センサ、機械学習、人工知能を使用して、物理オブジェクトをモニタリングし、反映させます。各種のデジタル・ツインにはそれぞれ独自の機能と利点があり、車両の包括的なデジタル・モデルを構築するために組み合わせて使用することができます。
階層構造に基づくデジタル・ツインの分類
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ユニット・レベルのデジタル・ツイン
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下位の階層レベルで、機器、材料、または環境要因を構成要素として反映。
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システム・レベルのデジタル・ツイン
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生産システムまたは複雑な物理的製品に含まれる複数のユニット・レベルのデジタル・ツインから構成。
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SoS (System of Systems) レベルのデジタル・ツイン
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いくつかのシステム・レベルのデジタル・ツインがSoSレベルのデジタル・ツインを形成し、サプライ・チェーン、設計、サービス、メンテナンスなどにわたって連携を強化。
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デジタル・ツインではデータが重要
デジタル・ツインは物理オブジェクトに関する膨大な量のデータを生成するだけでなく、その機能を完全に提供するたには、物理オブジェクトからキャプチャされたデータも必要とします。自動車では、センサは車両のいくつかの部分に固定され、車両の機能と状態に関する大量のデータを生成および中継します。データ・フローは現代のデジタル・ツインの重要な一部であり、車両の寿命全体を通していくつかの利点を提供できます。
図1. デジタル・ツインのエコシステムの構成要素と機能 こちらからブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
車載コンポーネントのモニタリングは、データの利用によってもたらされる特定の利点の1つです。一例として、異常の修正に不可欠なバッテリーの健全性(State-of-Health:SoH)の追跡があります。SoHと同様に、デジタル・ツインは車載コンポーネントの残存耐用期間(Remaining Useful Life:RUL)を追跡するのにも役立ちます。SoHは自動車メーカーがバッテリー充電やコンポーネントの熱制御を管理するのに役立つ可能性がある一方、RULは、保険会社が損傷した車両の価値を評価したり、新しいコンポーネントを注文するよう所有者に通知したりするのに役立ちます。例えば、バッテリー・システムのRULが最小になった場合に、バッテリーを交換し、別のアプリケーションに転用することができます。
これらの可能性の実現には、いずれも膨大な量のデータが必要となります。デジタル・ツインがデータに依存することは自動車に限ったことではありませんが、現代の車両はますます複雑化しており、テクノロジーが果たす役割はさらに重要になっています。これらの複雑な車両は、より多くのデータを生成するだけでなく、最適なパフォーマンスを実現するために、データを可能な限り迅速に精緻化して中継する必要があります。
車両アーキテクチャの変化
車両アーキテクチャは、データの双方向伝送に対応するために、より柔軟性を高める必要があります。特に、データ使用量の増加に伴う処理要件を満たすために、高性能な車載ネットワーキング(In-Vehicle Networking:IVN)が必要です。この点に関して多く見られるようになっているトレンドの1つが、ゾーンEEアーキテクチャへのシフトです。
車載機能をネットワーク上に分散させるゾーンEEアーキテクチャでは、車載アーキテクチャの特定の部分に問題を局所化できます。これにより、迅速な応答とエラーの検証が可能になります。デジタル・ツインは、車両のエンド・ノード付近(アクチュエータやセンサの近く)に配置するか、高性能コンピューティング・クラスタに配置してより集中化するか、または接続されたクラウドに配置することもできます。レイテンシと処理判断に関わる応答時間の要件によって、デジタル・ツインの配置場所が決まります。信号がクラウドへ至るまでの空間全体にわたって各種機能やデジタル・ツインを移植できるツールおよび処理能力により、システム開発者は機能を簡単に移行できます。
図2:アーキテクチャの進化トレンド:ドメインからゾーンへ こちらからブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
さらに、中央車載コンピュータの処理能力を高めることで、ゾーンE/Eアーキテクチャは、ソフトウェアやOTAアップデートを通じて車両のイノベーションを推進できます。アーキテクチャのゾーン化により、複数のソースからのデータの統合が簡素化され、デジタル・ツインの使用が急速に増加する可能性があります。
車載プロトタイピング、パフォーマンスの最適化、その他の利点
仮想プロトタイピングは複雑な作業ですが、さまざまな状況で複数の車載コンポーネントがどのように連携するかを明確にすることができます。OEMにとっては、デジタル・ツインは仮想プロトタイピングを容易にするだけでなく、車両の設計のアップグレードや新機能の導入を通じてコストを削減できる可能性を高めます。運用データを収集し、分析することで、車両のパフォーマンスをシミュレートし、潜在的な改善点に関する洞察を共有できます。それにより、車載コンポーネントのパフォーマンスを最適化するための複数の利点が得られます。
そのような利点の1つが、バッテリー寿命を延ばすためのバッテリー・マネジメントの改善です。AIを活用したソリューションを使用することで、バッテリーの健全性の変化に対する調整が可能になり、特に対応処置を判断するための制御を継続的に改善できるようになります。これは、EVの航続距離の延長、バッテリーの安全性の確保、バッテリー寿命の延長など、EVのバッテリーやBMSに関する主要な懸念事項に対処するのに役立ちます。
また、BMSの改善に加え、車両のコンポーネントやシステムをリアルタイムでモニタリングできる予知保全のメリットもあります。このデータを使用して、メンテナンスが必要な時期を予測し、ダウンタイムとメンテナンス・コストを削減することができます。自動車業界におけるこのテクノロジの他のユース・ケースとしては、さまざまな運転状況での自動運転車の挙動のシミュレーションがあります。これは、自動運転車のソフトウェアとハードウェアのコンポーネントを、道路上を走行させる前に改良し、テストするのに役立ちます。
全体として、自動車におけるデジタル・ツインの使用は、特に車両のデジタル化が進むにつれて、より広がっていくでしょう。それにより、製品の設計、製造プロセス、車両のメンテナンスを改善し、より優れた製品とより効率的で信頼性の高い自動車産業を実現できる可能性があります。このような進化が続く中で、重要な優先事項の1つは、自動車のさまざまなプロセスにわたり機能安全とサイバーセキュリティの要件を満たすことです。
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