AIの次の進化であるエージェント型AIは、エッジにおける自律性の向上に重点を置いています。エージェント型AIは、最も人間らしく振る舞います。エージェント型AIは、エージェントと呼ばれるソフトウェア・システムを活用し、AIを使用して人間に代わって目標を追求します。
この業界では、予測と自動化が当たり前の世界が秘めているとてつもない変革の可能性をどのようにして引き出すのでしょうか。それは自律型のエッジを実現することから始まります。これは、Jens HinrichsenがComputex Symposiumの基調講演で、AI(人工知能)の進化を、初めて登場した認識ベースのAIから現在の最先端のエージェント型インテリジェンスまで辿ったトークのメッセージです。その中で、Jensは自律型エッジ・システムにとって専用の信頼できる(安全でセキュアな)プラットフォームにどのようなメリットがあるかを説明しています。
すべては、AIが私たちの生活をより良く、より生産的に、よりサステナブルで安全にするという前提から出発します。そして、AIが私たちに近い存在になり、この世界の一部となった場合に、こうした目標が達成可能になるというのは当然のことです。そこでは、私たちは自分の都合に合わせて他の人や周囲の環境と関わり合います。この領域を「エッジ」と呼んでおり、リアルタイムの自律性を実現するためには、AIがここに進出する必要があります。
図1:Jens Hinrichsenは、エージェント型AIと自律型エッジの役割に関する基調講演を行っています。
データが解き放つ可能性
この変化は、AI/自律型のつながりを阻むデータの問題を回避できるため、重要です。私たちは膨大な量の価値あるデータを生成しています。実際、過去3年間で人類の全歴史よりも多くのデータを生成しており、クラウドベースのAIの力でそのデータを活用する方向へと大きく進歩しているものの、自律性への旅の最後の1マイルには、さらなる一手が必要です。
エッジでリアルタイムに実用的な意思決定を下せるようにする必要があります。この物理世界はクラウドにアップロードするには広大すぎるので…AIをインテリジェント・エッジに導入する必要があります。
Ali Osman Ors、NXP Semiconductors、AI ML戦略およびテクノロジ、エッジ・プロセッシング担当ディレクタ
図2. 自律型エッジへの旅の「最後の1マイル」には、ハードウェア、ソフトウェア、データ間の巧みな処理と効率性が必要です。
AIをエッジに導入すると、アクションが起きた場所で処理が実行されるため、データ転送と帯域幅が大幅に削減されます。その結果、クラウドへのデータ転送の必要性が限定的となり、「常時」のクラウド接続が必須ではなくなります。
エッジでは、AIはクラウドへのラウンド・トリップをバイパスして、自動車のADAS機能、健康異常を検出するスマート・デバイス、人生をより良く安全にすることができる無数の意思決定リストなど、私たちに最も影響を与える種類の迅速で実用的な意思決定を可能にすることができます。
この種のアクションと処理を可能にするには、エネルギー効率が最適化されたエッジ・ハードウェアと、安全性、セキュリティ、データ・プライバシーを通じたテクノロジに対する新しいレベルの信頼の両方が必要です。エッジに進出した結果として、こうした重要なイネーブリング・テクノロジをシームレスに提供できます。
エージェント型AIへと向かうAIの進化
AIがどこに向かっているのかを理解するために、JensはAIの驚異的な変遷を振り返りました。認識系AIから「認識エッジ」がどのように生まれたかを説明しました。これは、信号を解釈し、誰が誰で何が何であるかを認識できます。この認識機能は、ニューラル・ネットワークの進歩が牽引し、エッジに到達するのに10年かかりました。
AIの変遷の次のステップは、エッジがインタラクティブになった生成AIです。このインタラクティブ性は、今日の生成AIソリューションの基盤であるトランスフォーマー・モデルの画期的な進歩によって実現されました。トランスフォーマー・ベースのLLM(大規模言語モデル)とVLM(視覚言語モデル)は、言葉や視覚情報を通じて人間と自然に対話する機能をもたらしました。
図3. AIテクノロジは個々の専門分野へと分化し、クラウドからエッジに移行しつつあります。
それ以来、生成AIモデルの爆発的な進歩はクラウドに恩恵をもたらしてきましたが、さらに大きな恩恵を受けているのがエッジです。従来の大規模モデルと同等の機能と性能を備えた、はるかに小型のモデルが、かつてないほどのスピードで導入されてきたからです。こうした小型の生成AI言語モデル (LLM)、視覚モデル、マルチモーダル・モデルは、エッジに適しています。しかし、これらの驚異的な進歩があったものの、対話できるだけでは十分ではありません。
生成AIは、さまざまなアプリケーションに新たな可能性をもたらします。エッジにおける生成AIの実例をご確認ください。
図4. NXPパートナーのKinaraが構築したディスクリートMPU上で動作するマルチモーダル生成AIモデルについての録画。
エージェント型AIへの飛躍 – 自律型の未来へとつながるコンパニオンの夜明け
AIの次の進化であるエージェント型AIは、エッジにおける自律性の向上に重点を置いています。エージェント型AIは、最も人間らしく振る舞います。エージェント型AIは、エージェントと呼ばれるソフトウェア・システムを活用し、AIを使用して人間に代わって目標を追求します。
こうしたエージェントは、タスクについて考え、洗練させ、完了させます。これはAIの集大成で、これまでのAIの進化のあらゆる要素を組み合わせてプロアクティブなエッジを生み出します。エージェントは、リアルタイムに世界を知覚し、考え、行動し、自立的に対応することができます。意思決定を評価し、洗練させ、行動します。言い換えれば、エージェント型AIは自律型エッジを実現するものであり、エッジAIの真の価値は自律性、つまりシステムが人間の自律的なコンパニオンとなったときに発揮されます。
AIは産業環境におけるイノベーションを促進しています。Jensは、AIエージェントが工場の異常にどのように対応できるかを深く掘り下げています。
自律型エッジに必要なシステムのリフト
自律型エッジには大規模なテクノロジのリフトが必要であり、NXPはシステムの構成要素とそれに対応するソリューションでこれに対処します。
NXPは、シンプルなMCUから車載および産業用プラットフォーム向けの強力なアプリケーション・プロセッサまで、拡張性の高い処理プラットフォーム向けのハードウェア構成要素を提供するとともに、パワーマネジメントを緊密に統合することでエネルギー効率を最大化しています。また、多様なニーズやデータ・レートに対応する安全性とセキュリティ、ネットワーク、コネクティビティ機能も提供しています。
NXPは、アプリケーション・ソフトウェアとの橋渡しとなる、ハードウェアに合わせてカスタマイズされたライブラリ、ツール、ドライバ、ミドルウェアなど、システムを稼働させるための包括的なソフトウェアも提供しています。ミドルウェアに関しては、お客様が特定のユースケースに合わせて選択できるソリューションを幅広く取り揃えています。
AIはエッジの制約に合わせて適切なサイズにする必要があります。特に、コンピューティング能力、メモリ制約、そしてエネルギー効率が重要です。そのため、モデルの定義と適切なサイズを提供する、モデル開発と展開用のeIQ AI SW開発環境ツールを開発しました。
自律性は、信頼できる場合にのみ拡張可能です。安全性とセキュリティを確保したうえで構築する必要があります。
Ali Osman Ors、NXP Semiconductors、AI ML戦略およびテクノロジ、エッジ・プロセッシング担当ディレクタ
安全性とセキュリティは、エッジにおける自律型システムの基盤となります。機能安全とセキュリティは、システム・レベルにおいてエンドツーエンドで確保し、個々のユースケースに合わせてカスタマイズする必要があります。機能安全に関しては、最高レベルの機能安全が求められる業界である車載および産業分野の専門知識を活用しています。ハードウェアとソフトウェア、およびアプリケーションを含むシステム・レベルで機能安全を定義しています。
セキュリティについては、複数のエンドツーエンドの対策を組み合わせる必要があります。セキュリティは、パスポート、クレジット・カード、モバイル・ウォレットのセキュリティを最高水準で提供してきたNXPの伝統から、NXPのDNAに深く刻み込まれています。このセキュリティにおけるリーダーシップを維持するため、NXPは既に製品にポスト量子暗号化を組み込んでおり、継続的なライフサイクル管理とセキュアなOTAアップデートを実現しています。
投資とエコシステムが必要
図5. NXPのエッジAIエコシステムとソリューションは、複数の信頼できるパートナーによってサポートされています。
NXPは、このほど、Kinara、Aviva Links、TTTech Autoの3社を買収する意向を発表しましたが、まだ最終決定には至っておりません。
Kinaraは、エッジでエージェント型AIを実装するのに最適な生成AI対応のディスクリートNPUを提供しています。
Aviva Linksは高帯域幅の非同期データ転送のためのエッジ・ネットワーク機能を提供し、TTTech Autoは安全性が重視されるミドルウェア・プラットフォームを提供しています。
これらの買収(現在、規制当局の承認を待っています)は、自律型エッジを実現するNXPの取り組みを加速させます。
こうした投資に加えて、顧客やパートナーとの強力なコラボレーションが、AIの取り組みをサポートする充実したエコシステムとして結実しています。
Jensは、エッジにおけるAIの進化がかつてないほど加速していることを示し、自律型エッジに向けたAIの進化における次のステップを探りました。エージェント型AIは、こうしたシステムが本当に驚くべき方法で思考し、行動して、学習できることを示しています。
その構築にはエコシステムが必要であり、これが基本的に自律的な未来を実現する方法です。