ゼロ・エミッションの未来を実現するためには、自動車業界そのものを大きく変える必要があります。自動車メーカーは、差別化された電気自動車の新モデルを速いペースで市場に投入しなければなりません。NXPとWolfspeedは共同で、800Vトラクション・インバータのリファレンス・デザインを発表しました。これは徹底的なテストを経て開発されており、電気自動車のシステム・アーキテクトにとっての課題の多くを解決するために役立ちます。
パワー・インバータ・モジュールの構造。
NXPとWolfspeedは共同で、自動車メーカーのパートナーをサポートし、電気自動車の開発を容易にするために、800Vトラクション・インバータのリファレンス・デザインを発表しました。これは徹底的なテストを経て開発されており、システム効率を高めるコンポーネントの選定、機能安全性認定基準の遵守、長期にわたる信頼性など、電気自動車のシステム・アーキテクトにとっての課題の多くを解決するために役立ちます。
このEVトラクション・インバータのリファレンス・デザインは、Arm® Cortex®-M7を搭載したS32K39 MCUに、機能安全に準拠したパワーマネージメント用FS26システムベーシス・チップ、最新世代の高電圧絶縁ゲート・ドライバであるGD3162を組み合わせた、フルシステム・ソリューションです。さらにこのシステムに、Wolfspeedの1200 V 6パックYM SiCパワー・モジュールを組み合わせます。
このリファレンス・デザインが、EVの主要な課題を解消します。800Vトラクション・インバータのリファレン・スデザインの詳細については、こちらをご覧ください。
このEVトラクション・インバータのリファレンス・デザインは、Wolfspeedのミュンヘン研究所で、ハードウェア・イン・ザ・ループ (HIL) セットアップを使用して共同でテストされました。バッテリーが800 Vを出力できる状態では、ピーク・パワー300キロワット以上という高性能を達成しました。
ラボのHILセットアップでのテスト結果。
最大限の効率性を目指した設計:パワー需要の変化に対応する動的ゲート強度
NXPの高電圧ゲート・ドライバの専用機能の効果もあり、ラボ・シミュレーションでは効率性が約1%改善されたことが実証されました。この機能を利用し、リアルタイムの動作状況に応じてゲート駆動信号の強度を動的に調整することで、効率性、スイッチング速度、電磁的互換性の性能のバランスを取ることができます。乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法 (WLTP) の一部のモデルについては、従来のEVソリューションと比較して走行可能距離が14マイル増える可能性があります。
効率性の改善を示す結果。
拡大図をダウンロードして、詳細をご覧ください。
機能安全を考慮した設計:副次的デバイス、副次的システム機能安全を超えて
機能安全 (FuSA) に関しては、高品質と信頼性を優先した準拠コンポーネントを使用しています。安全性へのアプローチは、設計、製造、文書化、サポートまで、あらゆる段階に反映されています。EVトラクション・インバータのリファレンス・デザインには、NXPのS32K396 MCU、FS2633システムベーシス・チップ、GD3162高電圧ゲート・ドライバなど、最も高いリスク・レベルに準拠したASIL Dコンポーネントが使用されています。また、お客様側での統合を容易にするために、前提とする安全目標からハードウェア・レベルおよびソフトウェア・レベルまで、安全要件を説明するシステム・セーフティ・コンセプトなどのFuSaドキュメントも提案します。
高い信頼性と長期使用に耐える耐久性を実現する設計
800 Vトラクション・インバータでは炭化ケイ素 (SiC) ソリューションが必要になります。SiC材料は、従来のシリコンIGBTよりも信頼性と耐久性に優れているという特性があります。Wolfspeedは、自社の車載仕様YMパッケージに高度なパッケージング・テクノロジを導入することで、システムの耐久性をさらに高めることができると考えました。
1200 V 6パックYM SiCパワー・モジュールは、銅製のピン・フィン・ベースプレートを直接冷却する設計を採用し、ピン・フィンを冷媒に直接浸すことで温度性能を高めるというシンプルなシステム・アッセンブリとなっています。耐熱衝撃性と耐摩耗性に優れた堅牢なセラミックである窒化ケイ素基板を採用することで、ダイが発する熱を効率的に放散し、システムの動作温度を下げます。さらに、焼結接合ダイ・アタッチという革新的なパッケージング手法を採用しています。これはダイと窒化シリコン基板を強固に接合する最先端のダイ接合技術で、優れた熱伝導性と機械的耐久性を保証し、大出力と優れた熱サイクル・パフォーマンスを可能にします。銅製ピン・フィンの直接冷却と焼結接合ダイ・アタッチの両方のテクノロジが、優れた熱性能とシステムの長寿命化をもたらすのです。
YMモジュールでは、従来のワイヤ・ボンドを銅製の上面クリップに置き換えることで、モジュールのアンペア容量とパワー・サイクル寿命を改善し、端子レイアウトの最適化を可能にしました。これによりパッケージ・インダクタンスが最小限に抑えられるため、電圧オーバーシュートを低減し、超低スイッチング損失を実現できました。車載グレードのYMモジュールは、機械的故障の可能性を減らすために、硬質エポキシ封止材が使用されています。ゲル・ベースの封止材をエポキシ成形材料に置き換えることで、優れた耐湿性と構造的保全性が実現します。焼結接合ダイ・アタッチ、銅製クリップ、エポキシ成形材料の組み合わせにより、最も近い競合製品と比較して最大3倍の寿命を達成できました。
Wolfspeedの6パックYM SiCパワー・モジュール。
以上の高度なパッケージング・テクノロジが導入されたYM3パワーモジュールはAQG324の認定を受けており、過酷な車載環境でも動作に不安はありません。その比類のない耐久性によって、一貫した性能を発揮します。
私たちが提供するもの
NXPとWolfspeedの800Vトラクション・インバータのリファレンス・デザインは、自動車業界が電気自動車に移行しつつある現状において、大きな進歩をもたらします。このリファレンス・デザインによって、EV設計者が直面する効率性の改善、機能安全、長期にわたる信頼性などの重要な課題を解消し、内燃機関車両に匹敵、あるいはそれを上回るパフォーマンスを備えた電気自動車を開発できるようになります。このリファレンス・デザインには、動的ゲート強度調整や最先端の炭化ケイ素パワー・モジュールなどのテクノロジが盛り込まれており、高品質で効率性と安全性の高い電気自動車を設計し、その寿命が終わるまで優れたパフォーマンスを発揮できるようにするために欠かせないツールとなるでしょう。