現在、世界中で自然なヒューマン・マシン・インターフェース (HMI) が着実に普及しつつあります。スマート・スピーカーと会話を交わしたり、紙の本のように見える電子書籍リーダーで読書したりできるようになりました。電子機器はもはや電源コンセントにつながれたシステムではなくなり、いつでも持ち歩くデジタル・コンパニオンになりつつあります。
この革命を推進するには、音声コマンドの認識、オーディオ再生、グラフィカル・ディスプレイ、システム制御まで、すべてを処理できるマルチコア・プロセッサが必要です。パワーマネジメント分野とセキュリティ分野の技術革新により、このようなチップは常時オンでもほとんど電力を消費せず、オンデマンドでインタラクティブに操作できます。
i.MX 8ULPプロセッサを搭載した革新的なEnergy Flexアーキテクチャ
NXPは、i.MX 8ULPアプリケーション・プロセッサによってこのようなイノベーションに対応します。このチップでは各機能を別々の電力アイランドに配置することで、きめ細かなパワーマネジメントを可能にしています。各アイランドで処理速度と電圧を下げることで消費電力を削減でき、完全にオフにすることも、100%オンにすることもできます。プロセッサ内で最も多くの電力を消費するパーツがCPUです。i.MX 8ULPプロセッサは、システムの応答性を維持しながらスリープ状態と省電力状態に対応するために、ペリフェラル機能の制御を強力なアプリケーションCPUから低消費電力の制御CPUに引き継ぐ機能を世界で初めて搭載しました。
重要なのは、i.MX 8ULPプロセッサにはチップのどの部分をスリープ状態にするか、完全に起動するか、またはその中間の状態にするかを常時決定できるスマート機能が搭載されていることです。パワーマネジメントのソフトウェア制御を実現したNXPは、開発者が必要に応じて導入できる複数のパワーマネジメント・プログラムを提供しています。また、開発者は書き込みソフトウェアを独自に作成することで、システムの状態を監視し、各アイランドの周波数と電圧を調整できます。
i.MX 8ULPプロセッサの組み込みセキュリティ
スマート・デバイスやコネクテッド・アプリケーションのセキュリティを確保するには、セキュリティが組み込まれたハードウェアが必要です。i.MX 8ULPプロセッサには、NXP EdgeLock® Secure Enclaveが組み込まれています。これはセキュリティ機能を目的としたユニットであり、CPU、ROM、RAMが含まれるSoCの他の部分から物理的に分離されています。EdgeLock® Secure Enclaveは、i.MX 8ULPプロセッサの完全性保護、ユーザー・データの機密性、セキュアな接続など、セキュリティに不可欠な機能の実行に必要な信頼できる環境を実現します。特にEdgeLock® Secure Enclaveは、NIST 8425規格への準拠、コネクテッドな民生機器を対象とした新しい米国サイバー・トラスト・マークの取得、さらに産業用制御システムや自動化システムに求められるIEC 62443規格のサポートに確実に対応することができます。Edgelock® Secure Enclaveのセキュリティ・モジュールはバッテリーでバックアップされており、改ざん対策機能やセキュリティ違反のゼロ化機能などが可能であるため、PoSなど複数のアプリケーションに対応できます。
さらにi.MX 8ULPプロセッサなら、OEMは地域別の要件を満たした、すぐに使える暗号化プロファイル構成を利用できます。また、NXPのEdgeLock® 2GOキー管理サービスを組み合わせることで、信頼されていない工場や現場、無線ネットワークでも、資格情報をi.MX 8ULPプロセッサ・ベース製品に安全にプロビジョニングできます。その際、組み込みのEdgeLock® Secure EnclaveとEdgeLock® 2GOクラウド・ プラットフォーム間にエンドツーエンドのセキュアな接続が作成されます。i.MX 8ULPプロセッサはNXP EdgeLock® Assurance Programにも含まれ、PSAおよびSESIPのセキュリティ・レベル2認定を取得しているため、セキュリティの基準や規制の遵守証明を速やかに進めることができます。
インダストリアルおよびスマートホームに対応する、NXPのPMICファミリをご覧ください。PCA9460ファミリは、i.MX 8ULPファミリ・プロセッサをサポートしています。
i.MX 8ULPプロセッサの内部構造
音声コマンド対応システム向けに、i.MX 8ULPプロセッサはCadence Tensilica Fusion DSPに加えデジタル・マイク入力とI2Sポートを備えています。超低消費電力のFusion DSPは、i.MX 8ULPプロセッサのリアルタイム・ドメイン内で、電力効率に優れたArm® Cortex®-M33F CPUと並列して動作します。ブロック図を参照してください。大容量のオンチップ・メモリを搭載しているため、このDSPとCPUは外部チップを利用せずに動作します。この両コアがアクティブな間、チップ内の他の部分の電力供給をオフにすることもできます。たとえば、特定のウェイク・ワードを待ち受け、そのウェイク・ワードを検知したときにのみチップ内の他の部分をアクティブにすることもできます。
i.MX 8ULPアプリケーション・プロセッサのブロック図。 ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
このリアルタイム・ドメインは、チップ内の他の部分がスリープしているときも動作を継続するだけでなく、その名前が示すように時間が重要となるタスクを扱います。そのためにタイマーと、システムの他の部分を制御する低速I/Oを豊富に備えています。
一方で、i.MX 8ULPプロセッサのアプリケーション・ドメインはメイン・ソフトウェアを実行します。このアプリケーション・ドメインの中心を担うのは、最大2個の64ビットArm® Cortex ®-A35 CPUです。このコアはエネルギー効率に優れ、LinuxまたはAndroidを実行できます。この2つのオペレーティング・システムは適応性が高く、携帯電話から中央コントローラまで幅広い用途に対応します。アプリケーション・ドメインには、CPUを補完する高速I/Oコントローラも組み込まれています。SDIOインターフェースを使用して、NXPのIW416デュアルバンド・トリプル無線ソリューションなどのペリフェラルを接続できます。これにより2.4 GHzおよび5 GHzのWi-Fi、Bluetooth、Thread無線通信に対応するため、Matterスマートホーム・ネットワークから社内LANに至るまで、幅広いネットワークに接続されるシステムに最適な選択肢となります。
フレックス・ドメインはマルチメディア機能とグラフィックス機能を担い、フル機能のGPUとCadence Tensilica HiFi4 DSPが組み込まれています。GPUは多くの場合、低消費電力性能が優先されないPC、スマートフォン、ゲーム・コンソールで採用されますが、i.MX 8ULPチップには電力効率を犠牲にすることなくGPUを組み込むことができました。このGPUにはi.MX 8ULPプロセッサのパワーマネジメント原則が反映され、3D回路をオンデマンドでオンにできるため、3D回路がオフのときには2Dエンジンのみを使用して消費電力を減らしつつ、画面を更新することができます。
さらにHiFi4 DSPを利用することで、小型のスマート・スピーカーでも迫力ある低音やクリアな高音を実現し、小型デバイスで没入型オーディオ体験を実現する空間オーディオ・アルゴリズムを実行できます。しかし、HiFi4の役割は音声の再生だけではありません。音声を録音する際には、マイク・アレイで収集されたサウンドを処理し、背景のノイズから音声だけを分離できます。さらにHiFi4をAI機能に使用して、Fusion DSPが停止した場所を特定したり、ニューラル・ネットワークを実行して音声を認識したりできます。
フレックス・ドメインにはこのような処理要素に加えて、オーディオ、カメラ、ディスプレイ用のインターフェースも備えられています。紙に印刷したように見えるディスプレイを搭載したシステムに対応するために、i.MX 8ULPプロセッサにはEインク・パネルを駆動する電気泳動型ディスプレイ・コントローラ (EPDC) が内蔵されています。色鮮やかでインタラクティブなディスプレイを搭載したシステム向けには、プロセッサ上の他のインターフェースを使用できます。
i.MX 8ULPはホーム・システムおよびインダストリアル・システム向け
i.MX 8ULPプロセッサは高度なパワーマネジメント機能とセキュリティ機能を備えているため、多様なシステムの中枢部に使用できます。たとえば、バッテリで駆動される音声対応の医療用ウェアラブル機器では、低消費電力性が極めて重要です。このような機器が小型バッテリで動作する場合、8ULPプロセッサのDSPとオーディオ・インターフェース、ワイヤレスチップ・インターフェース、Eインク・コントローラが役立つでしょう。ロジスティクス・タグやスマートシェルフ・ラベルなどの用途にもこの特長が役立ちますが、その場合、音声機能は必要ありません。このような用途でも、DSPとオーディオ・インターフェースの電源をオフにすることで、電力消費量を最適化できます。
一方、スマート・サーモスタットの動作は大きく異なります。i.MX 8ULPプロセッサのリアルタイム・ドメインとGPUの2Dモード動作のみを利用し、温度を継続的に監視してLCDパネルを定期的に更新することで、現在の温度、設定、時刻を表示します。電力会社と居住者が住宅の状況を監視し、管理できるように、10分ごとにアプリケーション・ドメインが短時間起動してクラウド・ベース・サービスにデータを送信します。居住者が洗練されたタッチスクリーン・インターフェースでそのデータを確認する際には、3D GPUとアプリケーションCPUが起動します。住宅の別の場所にあるスマート・メーターはバッテリー電源で長期間動作し、インタラクティブなアプリケーションを実行する必要がなく、ディスプレイも不要ですが、定期的に電力使用量データを収集して送信します。このような機器の設計では、i.MX 8ULPプロセッサの低消費電力性と無線チップへの接続機能が役立つでしょう。
音声対応のスマート・サーモスタットにより、少ない消費電力で継続的に温度をモニタリングできます。
このようなシステムはシンプルであればあるほど、優れたエクスペリエンスを実現するために、ユーザーの操作に瞬時に応答できる必要があります。省電力状態であっても、常に起動しているように見えることが求められます。i.MX 8ULPプロセッサは、低周波数動作からフル・パフォーマンスへのリアルタイム切り替え、アプリケーション・ドメインのウェイクアップ、ドメイン間での制御権の転送に対応する機能を備え、一瞬の遅延も生じずにシステムの省電力化に役立ちます。反応が0.5秒遅れただけでも遅すぎる場合があります。たとえば音声制御機能を備えたスマート・ウォッチは常に特別なキーワードを待ち受け、そのキーワードを検知すると特定の動作を実行します。i.MX 8ULPプロセッサのリアルタイム・ドメインにあるFusion DSPは、チップ内の他の部分がスリープしている間、この検知機能を処理できます。HiFi4 DSPは音楽の再生中にのみ作動し、小さなスピーカーでもコンサートホールのような迫力のあるサウンドになるよう音楽を処理します。
今すぐi.MX 8ULPの使用を開始
i.MX 8ULPプロセッサを利用すると、低消費電力性を犠牲にすることなく、コンピューティング能力とマルチメディア能力を引き上げることができます。i.MX 8ULPプロセッサなら、アプリケーションのパフォーマンスを高め、音声を処理しAI機能を実行するDSPを追加でき、ソフトウェア定義のパワーマネジメント機能を実現し、セキュリティを新しいレベルにまで強化できます。
i.MX 8ULPプロセッサは現在販売中です。詳細については、NXPのWebサイトのi.MX 8ULPプロセッサのページをご覧ください。