2024年のMCXポートフォリオのリリースに引き続き、NXPは超低消費電力MCUのMCX Lシリーズを発表します。MCX Lは、現在のMCXポートフォリオと同じペリフェラルを多く使用しながら、常時オンのバッテリ駆動アプリケーションをサポートする新しいパワー・マネジメント・アーキテクチャを採用しています。
MCX Lシリーズで低消費電力の未来を見据える
MCX Lには、数十年に及ぶ低消費電力設計の経験が反映されています。NXPでは、この経験に高度な40 nmの超低消費電力 (ULP) 半導体プロセスを組み合わせて、MCX Lシリーズで使用する新しいIPとなる適応型動的電圧制御(Adaptive Dynamic Voltage Control :ADVC)を開発しました。ADVCサブシステムは、バッテリ、ウルトラキャパシタ、パワー・ハーベスティング回路などから電力を供給されている、エネルギー制約のあるアプリケーションに対して、真に優れたパフォーマンスを提供します。
低消費電力を重視した設計
MCX Lは、リアルタイム処理と超低消費電力センシング機能を1つのデバイスに統合するデュアル・ドメイン・アーキテクチャを採用しています。MCX Lの処理アーキテクチャは、Arm® Cortex®-M33に基づくリアルタイム・ドメインと、Arm Cortex-M0+に基づく常時オンのULPセンス・ドメインで構成されています。
MCX L25xブロック図。 ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
リアルタイム・ドメインのM33コアは、最大96 MHzで動作し、消費電流は24 µA/MHzです。
リアルタイム・コアは、SIMD DSP命令と浮動小数点演算ユニットを備えたArmv8-M Baseline ISAを実装しています。これにより、ULPドメインで取得したデータを高速かつ効率的にオンデマンド処理し、有線/無線ネットワーク経由で送信したり、ストレージ・メカニズムに記録したりできます。
MCX LシリーズがCESのビル・オートメーション・デモで紹介されます。CES 2025でNXPのブースCP 107にお越しください。
M0+コアは常時オン動作での使用が想定され、常時オンのドメインで低消費電力のアナログおよびデジタル・ペリフェラルを組み合わせてセンサ・データを収集します。たとえば、ULPセンス・サブシステムは、100 kbit/秒のI²Cトランザクションを実行している間、2 MHz動作で14 µAしか消費しません。7つの低消費電力モードがあり、最も深いスリープ・モードでは消費電流を1 µA未満に抑えることが可能です。たとえば、MCX Lはボタン・ウェイクアップで650 µA、自律的ウェイクアップで700 µAを達成できます。
パワー・マネジメントはMCX Lのシステム設計に不可欠な機能であり、ADVC IPによって優れたパフォーマンスを達成します。
システムのパワー・マネジメント・アーキテクチャにAVDCを統合
デバイスのコア電圧は、40 nmのULPプロセスで標準0.9 Vですが、AVDCによって動的に調整されます。ADVCはシステムの動作点を調整して、コア電源Vopが内部トランジスタのしきい値電圧Vtにできるだけ近い値で動作するようにします。消費電力は、∆Vop²として動作電圧とともに増加します。
動作点を可能な限り小さい値にすることで、動的消費電力を最小限に抑えることができます。電力は電圧の2乗に比例するため、動作電圧のわずかな変化が消費電力に大きな影響を与えます。たとえば、動作電圧を0.9 Vから0.65 Vに下げると、MCX Lの消費電力は半分になります。
ADVCは、プロセス、温度、エージングなどの環境条件に対して動作点を調整します。ADVCとパワー・マネジメント・モードはシンプルなSDK APIを介して制御されるため、組込み開発者は最小限の専門知識でこのテクノロジを利用できます。
さまざまなアプリケーションに対応する低消費電力ペリフェラル
MCX L14およびL25のペリフェラルは、リアルタイム・ドメインと常時オンのULPドメインに分かれています。各製品のペリフェラル・セットはそれぞれ、さまざまなアプリケーション要件に合わせてパフォーマンス、統合、コストのバランスを取るように設計されています。
L25ファミリは、産業用プロセス制御や流量測定のアプリケーションに向けた主要な機能を備えています。低消費電力LCDを駆動するSLCDに、ULPセンス・ドメインで動作する低消費電力I²C/UARTやキーパッド・ペリフェラルを組み合わせることで、測定用製品を開発するためのアジャイルなプラットフォームが開発者に提供されます。低消費電力のアナログおよびタイマ・ペリフェラルにより、基盤となるセンシング・テクノロジに対して柔軟なアプローチが可能になります。MCX L25は、パッシブ誘導性/容量性、パドル、各種圧力や超音波センシングなど、あらゆる一般的な測定トポロジに基づくメーターを実現します。
産業用流量測定。
デュアル・ドメインのMCX Lアーキテクチャにより、上位の測定アプリケーション/ユーザー・インターフェースと基盤となる計測/データ取得との間で課題を分離できます。これにより、設計者が独自の製品ファミリに取り組む際の俊敏性を大幅に高めることができます。
MCX L14は、産業用および民生用の深く組み込まれたセンシング・アプリケーション向けに、コスト、電力、ローカル・コンピューティング、パッケージングの各要件を満たすための重要な機能を提供します。L14は、ADC、タイマ、および接続性に関してほぼ同じ機能を備えていますが、深く組み込まれたセンシングおよび制御アプリケーション用のHMI機能は含まれません。
MCX L14の産業用アプリケーションには、スマートな温度、ガス、圧力、または接触センサが含まれます。標準のUARTインターフェースにより、MODBUSなどの産業用プロトコルを使用した設計が簡単になります。住宅および建設/インフラ用途では、L14は空気質、モーション、火災/煙、照明、水漏れなどのバッテリ駆動センサに使用できます。
NXP EdgeLock®セキュリティによる保護設計
MCX Lは、一連のハードウェア・ツールを統合して堅牢なセキュリティ・フレームワークを実装しています。NXP EdgeLockセキュリティは、さまざまな産業用途、建設/インフラ、住宅用途のセキュリティ・ニーズをサポートできます。
MCX LのROMには、セキュアなプロビジョニング・ワークフローを実装するためのツールが格納されています。これには、ROMに組み込まれたセキュア・ブートローダ機能、暗号化と署名チェックを高速化する暗号化アクセラレータ、真の乱数ジェネレータ、物理/論理TrustZoneソフトウェア分離、ワンタイム・プログラマブル (OTP) ヒューズを使用したデバイス・ライフサイクル管理、および組込みのセキュリティ・キーが含まれます。
これらのセキュリティ機能はMCUXpressoセキュリティ・ツールとともに、開発者が現在および今後の準拠要件を満たすのに役立ちます。IoTデバイスの必要最小レベルのセキュリティを確保するために、サイバーセキュリティ関連の各種規制の適用が進んでいます。EUのサイバー・レジリエンス法(Cyber Resilience Act:CRA)は2025年に施行され、2027年にはCEマークを取得するための完全な適用が始まる予定です。米国のCTM (NIST 8425) は2024年に施行され、現在は自主的な準拠ですが、将来は必須となる可能性があります。
MCUXpresso開発者エクスペリエンス
MCXポートフォリオの中心にあるのは、MCUXpresso開発者エクスペリエンスです。MCUXpressoは、コア・ソフトウェア開発キット(Software Development Kit:SDK)、統合開発環境(Integrated Development Environment:IDE)、および設定ツールを提供します。MCX LのSDKには、下位レベルのペリフェラル・ドライバ、設定ユーティリティ、および無線プロトコルの支援ツールが含まれています。
MCX Lはベアメタル・アプリケーションに最適ですが、RTOSにも対応しています。FreeRTOSのサンプルが、今後ZephyrのサポートとともにSDKで利用可能になる予定です。
MCUXpresso開発者エクスペリエンスの一環として、NXPは低コストのFRDM開発ボードを提供しています。これらのボードにはオンボード・プログラマ/デバッガが含まれており、Arduino®およびmikroBUSヘッダを介して迅速なプロトタイプ作成を可能にします。また、拡張ボード・ハブ からアドオン・ボードを利用できます。
FRDM開発ボード。
MCX LのSDKと拡張ボード・ハブに並ぶもう1つの開発リソースが、アプリケーション・コード・ハブ (ACH) です。ACHのリポジトリには、高度なソフトウェア・サンプル、コード・スニペット、デモが含まれています。これらのサンプルはSDKと関連付けられ、MCUXpresso IDEから直接アクセスするか、ACH Webインターフェース を介してアクセスできます。
MCX Lは、最初はハードウェア設計用に2つのデバイス・パッケージで提供されます。
- LQFP100:14 x 14 x 1.4 mm、0.5 mmピッチ
- VFBGA184:9 x 9 x 1 mm、0.5 mmピッチ
産業用アプリケーション向けには長期間の可用性が重要であり、MCX LシリーズはNXP長期製品供給プログラムの対象となります。
まとめと今後の展望
MCX L14およびL25は、MCXポートフォリオの最新製品です。MCX Lは、超低消費電力の常時オン・アプリケーションに重点を置いており、NXP独自のADVCテクノロジを通じてクラス最高の電力特性を実現できます。新しいMCX Lデュアルコア・アーキテクチャは、従来のMCXデバイスの1/3の消費電力で、スマート・センサ・ノードや流量メータなど、バッテリの制約を受けるインダストリアル&IoTデバイスのバッテリ寿命を延長します。